「欲」は本来清らかで尊いもの
とはいえ、「自分の欲望ばかり優先するなんて、ただのわがままでは?」と思う方もいるかもしれませんね。
そんなときには、「大欲大楽(たいよくたいらく)」という考えを参考にしてください。仏教は基本的に「少欲知足(しょうよくちそく)」を説きます。欲はできるだけ少なくし、それで満足することが大事である、つまり、これも欲しいあれも欲しいと考えるから苦しみが生まれる、というものの見方です。一方で、「大欲大楽」とは、密教の経典の中で述べられているもので、「大きな欲を持って生きれば結果的に誰かの役に立てる」という考え方です。欲そのものは清らかなものであって、悪いことではないのです。
「どうしたら自分が苦しまずにいられるか」というのは「小さな我欲」であるけれど、視点を広げて「自分のように苦しむ人がいない世の中をどうやったら作れるだろう」という発想をするのが「大欲」です。「少年よ大志を抱け」という言葉のように、「そんな小さな我欲に振り回されず、もっと大きな欲を持って生きよ」ということです。
誰にとっても、「自分はこれをやっているとき、利益の有無には関係なく、すごく楽しい」というものがあるはずです。その気持ちに基づいて自分をどんどん高めていくと、結果的に誰かの役に立てるようになっていきます。
また、夢中になって楽しく取り組んでいると、それ以外の欲に惑わされることがなくなります。そして「これさえあれば、何もいらない」というブレない自分を手に入れることができます。
さらに「それ以外の欲はいらない」となることで、少ない欲で足るを知る「少欲知足」にもつながる。それが「大欲大楽」という考えです。言っていることが正反対のように見える二つの言葉ですが、結果的に同じところに行き着くのです。
「欲」という言葉でいうと、「意欲」というのも欲の一つです。意欲がないと、何もやりたくない、とりあえず目の前のことをやっているだけ、というような無気力な状態になりがちです。欲があってこそ、自分の中に眠っている可能性や能力を発揮していくことができます。自分の仏としての役割を最大限に発揮するためには、大きな欲を持って取り組み、もともと人間に備わっている「欲」を否定するのではなく、それを肯定し、最大限に生かしていくことで昇華させることが重要なのです。
人が生まれながらに持っている能力には、善も悪も、きれいも汚いもありません。持っているものを最大限に生かし、生きていく。自分が本当にやりたいことを磨いていく。そうやって自分の役割を実践していけば、自然とあなたに共感する人が集まり、理解者が現れます。その相乗効果によって、あなたを含めた周囲の人みんながそれぞれの幸せを見つけていくことができるのです。
世の中のみんなの幸せの中には、あなた自身も入っています。あなたが我慢すれば済むのではなく、あなた自身が前に進みながら、あなたも周囲も幸せを感じられる「自利利他」の道を開くことが大切なのです。
もっと大きな欲に昇華させれば
自分もみんなも幸せになれる
「難しいんじゃない?」「大丈夫なの?」というふうに言われて、「行動しよう」という気持ちにブレーキがかかりそうなときは、自分の持っている欲をもっと大きくしていこう。思いが純粋なものなら、次第に周囲を動かし、共感してくれる人が集まり、必ず誰かの役に立つことにつながります。欲を消すのではなく、どんどん膨らませて「大欲(たいよく)」にしていきましょう。
心理カウンセラー僧侶

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取材・文/柳本 操 写真/PIXTA