「私にできること?」と最初に聞いた
50代後半になってから、娘との二人三脚で飛び込んだ新しい世界。いったいなぜ、娘の千津さんはビジネスパートナーとして専業主婦の母を選んだのだろうか。
タイミングが良かったということもある。律枝さんは25歳で結婚し、27歳で長女の千津さんを出産。39歳で出産した末っ子の三女が大学に入学して「子育てが終わった。さあ、これから何をしようか」と考えた時期が、千津さんの起業準備と重なった。
しかし何よりも、千津さんが母の行動力とコミュニケーション力、そして責任感の強さを見込んだというのが大きな理由だったという。「それまでの私の生活ぶりを見ていて、『お母さんならできる』と思ったようです」(律枝さん)
とはいえ、一緒に仕事をしてほしいと頼まれたとき、最初に律枝さんは「私にできること?」と尋ねた。「『大丈夫。言う通りにやってくれればいいから』と千津に言われました。何時の飛行機に乗って、何時までにここに行って、サインをして……と」
ゼロからの販路開拓。千津さんの指示に沿って活動していた律枝さんが、大手百貨店との取引を獲得したのはある偶然からだ。
夫と一緒に、静岡の伊勢丹を訪れていたときのこと。店舗を見ていた律枝さんは、「うちのバッグもここの売り場に置いてほしい」と思いつき、肩に掛けていたバッグを百貨店のインフォメーション係に見せて直談判した。一緒にいた夫もびっくりした「アポなし営業」だったが、運よくバイヤーにつないでもらうことができ、期間限定の販売が実現した。しかも販売期間中は何度も完売するほどの人気となり、販路拡大のきっかけになったのだ。

