サンリオピューロランドV字回復の立役者として注目を浴びる、サンリオエンターテイメント代表取締役の小巻亜矢さん。改革のために実践したのは大ナタを振るうことではなく、社員一人ひとりの成長を促し、対話するチームを作ることでした。コーチングと心理学という自身の得意分野を生かした小巻さんが目指した組織とは? 女性管理職必見の「しなやかな組織を作る10カ条」を全3回でお届けします。
(1)「5つの質問」で部下面談を「宝の山」に変える ←今回はココ
(2)「組織の壁」を取り払うための4つの仕掛け
(3)能動的に課題解決する「学び合う組織」とは?

エンタメ業界素人が「想定外」の館長に就任
おかげさまでサンリオピューロランド(以下、ピューロランド)は「奇跡のV字回復」といわれるようになりました。2018年度には来場者数が219万人と大台を突破し、平日の来場者数は5年前の約4倍に達しています。
それまでは長らく経営不振を指摘される時代がありました。オープン翌年の1991年度には196万人を記録した来場者数も一時は100万人を割り込み、赤字が続いていました。私がピューロランドの館長として赴任した2014年当時は施設の老朽化も進んでいて、スタッフにもバックヤードにも笑顔がありませんでした。レストランのメニューは味も種類も課題だらけ、館内に掲示されたイベントの表記もバラバラ、接客のマナーもきちんと教育されたとは言い難かった。
それらは決して従業員が悪いわけではなく、さまざまな要因が重なって負のスパイラルに陥った状態だったのです。大好きだったピューロランドが不振にあえいでいると聞いて、個人的にリポートを書いたのがきっかけで、本当に思いがけずピューロランドの仕事に携わることになりました。
業績が回復したことで、私が改革の先頭に立ったかのように言われますが、実際はそうではありません。低迷していた時期に現場のスタッフが悩み、考えてきたことが少しずつ前向きに開花した結果なのです。
「想定外」の人事でピューロランドの館長として着任したとき、「私にできることは何か」「どこに復活の糸口があるのか」、繰り返し自問しました。「エンタメ業界の素人」である私が外部から突然出向してきたのですから、受け入れる側の心境も微妙だったと思います。「ここを変えましょう!」と上から押しつけても引かれるだけです。
私がまず考えたのは「私自身の得意分野や強みを生かすこと」でした。それまでの私は、悩んでいる女性たちから相談を受けて、何か助けになりたいという思いでコーチングや心理学を学んできました。ピューロランドに着任する前には、自分自身や人の心の問題にどう関わればいいのかを研究したくて仕事をしながら東大大学院に学び「対話的自己論」を研究していました。人の心に向き合うことは私の得意とする分野です。
当時のピューロランドは「コンセプトや理念が伝わっていない」「スタッフの教育が行き届いていない」「ショー、イベント、グッズの連動がない」など、コミュニケーション不足から発生した課題がたくさんありました。つまり、組織の中で対話が不足していたのです。スタッフ同士のコミュニケーションを増やし、課題に向かう土台を作るために、最初に行ったのは「話を聴く」ことでした。それが、10カ条のうちの1つ目。まずは、ここからお話ししていきましょう。
