サンリオピューロランドV字回復の立役者として注目を浴びる、サンリオエンターテイメント代表取締役の小巻亜矢さん。改革のために実践したのは大ナタを振るうことではなく、社員一人ひとりの成長を促し、対話するチームを作ることでした。コーチングと心理学という自身の得意分野を生かした小巻さんが目指した組織とは? 女性管理職必読の「しなやかな組織を作る10カ条」を全3回でお届けします。
(1)「5つの質問」で部下面談を「宝の山」に変える
(2)「組織の壁」を取り払うための4つの仕掛け ←今回はココ
(3)能動的に課題解決する「学び合う組織」とは?

低迷したサンリオピューロランド復活のために何をすべきか。前回お話しした通り (「5つの質問」で部下面談を「宝の山」に変える)、まずは社員のことを知るため、5つの質問を軸にした「話を聴く」ワークショップを行いました。結果、ピューロランドの強みや可能性を強く感じることができました。その3カ月後に始めたのがアイスブレイク(初対面のときや会議の際に、緊張をほぐすことでコミュニケーションを円滑にし、出席者が積極性を発揮できるようにする手法)を取り入れた「ウオーミングアップ朝礼」です。今回は10カ条のうちの4番目、朝礼におけるアイスブレイクのお話から始めましょう。
4 朝礼に自己開示につながるアイスブレイクを取り入れる
不機嫌そうに座っている上司はNG
低迷していた頃のサンリオピューロランド(以下、ピューロランド)はスタッフ間で情報が共有されず、接客サービスの質も低く、残念な状態でした。ピューロランドの場合、朝礼の目的は(1)接客前のモチベーションを上げる、(2)必要な知識を共有する、(3)チームワークをつくる。朝礼の冒頭は必ずアイスブレイクとなる自己紹介で始め、サービススキルの研修、情報の共有、コスチュームチェック、最後は「キティ大好き!」と声に出して締めます。
職場によって朝礼の目的は違ってくると思いますが、仕事はチームプレーですから、アイスブレイクは大切です。朝礼の担当者が毎回「今のマイブームは?」「好きなキャラクターは?」といった簡単なお題を投げて、参加者全員が答えやすい環境を作るようにしました。
仕事に関係のないささいなことを聞いたほうが、その人の素顔が見えるものです。人は自分のことを話すときは照れくさくなって自然と笑顔になり、お互いに親近感が増します。だからこのアイスブレイクには上司も参加してもらいます。
私は、上司が不機嫌そうに腕を組んで椅子に座っている姿は、ハラスメントになりかねないくらい良くないことだと思います。周りが気を使い、「機嫌が悪そうだから、今日は相談するのをやめておこう」と思って引っ込めたら仕事が一日遅れます。それだけでも損失です。だから、上司こそ常に機嫌よくしなくてはいけないんです。1日の始まりに笑顔があれば、自然とコミュニケーションが取りやすくなります。数値化はなかなかできませんが、職場の居心地がよくなると生産性も必ず上がるはずです。
朝礼で挨拶を交わし、笑顔で向かい合う。それだけで仲間意識も芽生えます。これは接客業に限ったことではありません。特にメールのやり取りで仕事を進めていくような職場であれば、なおさらこうしたミーティングの場が1日の流れを円滑にします。
ピューロランドの朝礼は15分程度。とはいえ、アルバイトスタッフに15分早く入ってもらうためには人件費もかかります。さらにピューロランドではスタッフの勤務時間も異なります。全員に参加してもらうため、平日は1日9回、休日は一番多い日で17回ほど朝礼をします。私は人材育成を長くやってきたので、研修の大切さはよく分かっていましたが、最初は朝礼に対して反発もありました。それでも思い切って朝礼を行ったところ、結果は明らかでした。接客の質が高まり、仕事がスムーズになり、雰囲気が明るくなっていったのです。
朝礼はトップが一方的に連絡事項を伝え、何かを教える場ではなく、「スタッフから現場の情報を学ぶ」貴重な場でもあります。1日1回、直接顔を合わせることでスタッフの日々の変化にも気付きやすくなり、トラブルを回避することにも役立ちました。