サンリオピューロランドV字回復の立役者として注目を浴びる、サンリオエンターテイメント代表取締役の小巻亜矢さん。改革のために実践したのは大ナタを振るうことではなく、社員一人ひとりの成長を促し、対話するチームを作ることでした。コーチングと心理学という自身の得意分野を生かした小巻さんが目指した組織とは? 女性管理職必読の「しなやかな組織を作る10カ条」を全3回でお届けします。
(1)「5つの質問」で部下面談を「宝の山」に変える
(2)「組織の壁」を取り払うための4つの仕掛け
(3)能動的に課題解決する「学び合う組織」とは? ←今回はココ

いよいよ今回が最終回。10カ条のうちの8番目、「トップダウンよりティール組織を目指す」から始めましょう。最後には、私が常に心掛けている自分自身の「感情のモニタリング」についてもお話しします。特に最近では多くの企業が「感情的知性(EI:Emotional Intelligence)」に注目しています。個々のメンバーのスキルや能力だけでなく、自分の感情を適切に取り扱い、正しく対処することがチーム全体を健全に保ちます。どうぞ、最後までお付き合いください。
リーダーがいなくても動いていける組織をつくる
8 トップダウンよりティール組織を目指す
これからの組織を考えたとき、目指すべきは絶対にフラットなティール組織です。会社の成り立ちによってはトップダウンもありかもしれませんが、たった1人が太陽のように輝き続けることは、今の時代においては難しい。それぞれが得意分野を持ち寄ってチームとして機能しなければ前に進んでいけません。
むしろ、自分がいなくなっても動いていく組織を作るのはリーダーの大切な仕事の一つです。スタッフ一人ひとりが能動的に動くために私が大事にしているのは、意見やアイデアを聴くこと。私から課題を投げかけることはありますが、初めから答えを決めて「こうしなさい」とは言いません。
課題を自分事として共有してもらうのに必要なのは、仕組みというよりも一人ひとりのマインドチェンジです。コミュニケーションの土台が醸成された今のサンリオピューロランド(以下、ピューロランド)では、社員はボールを抱えません。いい意味で遠慮がなくなったので、課題を見つけたら関係する担当者にボールを投げる。すると、ボールを受けた社員から解決するアイデアが生まれてきます。
目指すのは、「学び合う組織」
一人ひとりが生き生きと活躍できる組織を作るためにも、私が伝え続けているのが「学びを続けること」です。新しい何かをインプットすると、人の可能性が広がります。館長に就任して以来、ことあるごとに学ぶ良さを周りに話していたら、学び始める人が増えてきました。これはうれしい変化です。
仕事に関係なくても新しいことにトライすると、人の成長につながります。勉強や資格取得でなくてもいい。ゴルフでも俳句でも、自分が無理なく楽しめる内容でいいのです。今までと違う何かを学び始めると、自分の中に違う風が入ります。
今までより少し上に行きたいという向上心。それが生まれるだけで組織が活性化します。だから私は「学び合う組織」であってほしいと願っています。先日も、「遅まきながら英語を始めることにしました」とスタッフが話してくれました。私からは「じゃあ、いつからどういう形で始めるか決めたらメール1本くださいね」とあえてくぎを刺しました。そうするとちゃんとメールを送ってくれる。ただそれだけですけど、お互いに背中を押し合っています。
仕事をする上で最も優先すべき概念は、人間として成長することです。プロジェクトの成功や売り上げの達成は成長するための手段であり、通過点の目標です。もちろん営利企業ですから、仕事の成果は大切。ですが、見失ってはいけないのは、仕事を通じて自分もスタッフも成長していく視点だと思っています。