昇進はスキルストレッチのチャンス

──女性は、自分自身の中に100%の自信がないと、昇進のオファーを受けない傾向があると言われていますが、どう思われますか。

川合 すごくもったいないと思います。その仕事をすることで、ストレッチされて伸びる部分が必ずあるので、チャレンジした方が自分のためになると考えています。だからオファーは断らない。仕事に限らず、飲み会などの誘いも同じです。「できます」とは言えないですけれど、「オファーをいただきありがとうございます。やれるだけのことをやります」とお引き受けします。失敗することもありますし、私には難しいと思うこともありますが、でもそれが壁なら、叩く、蹴飛ばすなど乗り越える努力をしてみて、どうしてもダメだったら一回休んで、というようなことを繰り返すと、思わぬところにドアを見つけたり、運よくはしごを貸してくれる人に出会ったりするものです。ですから私は、オファーは断らず、とりあえずやってみる派です。

──キャリアを積み重ね、役員になったからこそ見えてきたこと、気づいたことはありますか。

川合 役員になると、自分自身で大きな絵を描けます。例えば、他の企業の女性役員の方々と話しをしていてヒントを得た“ファッションコンサルティングサービス”もその一つです。女性役員のみなさんもお買い物は好きだし、お洋服も必要なのだけれど忙しくて時間がない、ファッションが専門ではないから自信と知識がない。でも、お金はある、決断力もある。この企画はそんな方々に需要がある、ビジネスチャンスがあると思ったんです。自分の思ったことを形にし、実際に動き始めるところまでもっていけるのは、このポジションでなければできなかったことだと思います。立場が上がると責任も大きくなり、何かあった時のリスクは大きくなりますが、見える景色は変わりますし、同時に仕事もより面白くなります。

──もっと女性役員を増やすために、日本の企業がすべきことは何だと思いますか。

川合 オファーする側のアンコンシャスバイアスを取り払うべきです。例えば、「子どもを育てている女性はきっと子ども中心の生活がしたいのだろう」とか、「プライベートが大変だから難しい仕事は与えない方がいいだろう」という無意識の偏見。企業側にそれがあると、女性が子どもを産み育てている間はキャリアが停滞してしまう。これは、企業や社会の繁栄にとってももったいない。カーブはゆるくなっても、少しずつでもステップアップ、キャリアアップできる仕組みを企業は考えるべきです。そのためにも、無意識の偏見を無くす努力をしなければいけないと思います。松屋でも、今やっと、短縮勤務中でも昇格できるようになりました。遅々としていますが、少しずつ変わっていくと思います。

──最後に川合さんから、働く女性へのエールやメッセージをお願いします。

川合 今の自分の限界はあると思うし、それがどこにあるのかを知る必要はあります。でも、能力にはまだ発揮されていない潜在的なものも含めて、限界はないと思うのです。「今日から部長」「明日から役員」「明後日から取締役」と言われても、自分で勉強したり、人に教えてもらったりしながらやればなんとかなる。私はここまでだとか、ここまでやれればいいではなくて、どこまででもやれると信じて、目の前のことを一所懸命やる。その繰り返しが大事なのではないでしょうか。一方で、仕事と家庭のバランスをとらなくてはならないステージにいるなら、自分は完璧じゃないということを理解して、そんな自分を快く許して何もかもやろうとしないことも大事です。人生はなんとかなるもの。だからオファーは絶対に断らないで。自分の可能性を信じて、ポジティブに前に進んでもらいたいですね。


アクセンチュアの視点
 女性が子育てをしながらキャリアアップすることがまだ一般的ではなかった頃から、時にゆっくりと、時に急速に昇進しながら仕事を続けてこられた川合さん。20代の「バリキャリ時代」から子育て中心の「ノンキャリ時代」、「ママキャリ時代」を経て、自身が役員としてステップアップしたのは「アベキャリ時代」だったと振り返られました。アベノミクスの風が吹き、女性を役員にという風潮が後押しになりました。
 役員になられた今、女性役員をさらに増やすにはオファーをする側がアンコンシャスバイアスを取り除くことが重要だとおっしゃいます。企業側が女性のキャリアに関する考え方を変えるだけではなく、オファーを受ける女性側も、川合さんがおっしゃるように自信がなくてもできるだけのことをやってみる姿勢を持つ……、その双方が重要なのではないでしょうか。

取材・文/鈴木友紀 写真/起定伸行