社員1名、手探りからのPR。社運を懸けた賭けた広告で大失敗
笹木 高岡社長は日本高圧電気という電気機器メーカーを経営しながら、開発したマットレス素材「エアウィーヴ」を、本格的に販売しようと考えていました。面接の場で社長が、私の経歴を聞くこともなく、エアウィーヴに対する熱い思いを1時間も語るのを聞くうちに、その熱意にキュンときて、夢を実現するお手伝いをしたいと思いました。エアウィーヴの初代社員になったのは、2009年1月のことです。日本高圧電気の会議室をオフィスに、社長と二人三脚で、営業から宣伝まで手探りで何でもやりました。
―― 当時のエアウィーヴは無名であるうえに、高反発という製品はそれまでの人気マットレスの主流からは外れた全く新しいものだったと思います。どのようにPRしていったのですか?
笹木 とにかく、商品力には自信がありましたので、その品質や機能性を理解さえしてもらえば絶対広まると考えました。エアウィーヴのクッション材は、特殊な樹脂繊維を編んだもので、高反発で寝返りが楽、蒸れにくく冬は暖かい、水洗いできるなど、高品質・高機能な素材。従来のマットレスとは全く異なりますが、早稲田大学との共同研究で、睡眠の質が改善するというデータもとれていたのです。
そこで、当時の会社には大金である数千万円を投入して、大々的に雑誌に広告を掲載しました。明日から注文の電話が鳴りやまないはず! と期待して準備も整えたのですが、実際は広告を見たという注文の電話は数本しかかかってきませんでした。このマットの良さは科学的にも証明された、品質もいい、広告には有名な女優を起用した。にもかかわらず、売れないのはなぜか……と、社長含め、何日も検討しました。その結果、足りなかったものは「買ってもいいと思わせる説得力」だという結論に達したのです。
よく考えてみたら、7万円もする無名のマットレスを、1度広告で見たくらいで購入しようとは思わないですよね。買ってもらうには、「あの人が本当に使っているものならいいに違いない」と思わせることが必要です。その実績づくりのターゲットに定めたのがオリンピック選手でした。数少ないチャンスに懸けるアスリートが「これはいい!」と言ってくれたら、タレントや芸能人が使っていると言うよりも、本当にいいものだという説得力が増す、と考えたのです。狙いは2010年のバンクーバー冬季オリンピックでした。