「オリンピック選手の愛用品」が売り上げ120倍のカギ

笹木 オリンピック候補選手にアプローチしようと決めたとはいえ、つてがないと会うことすらかないません。そこで、まず、選手から信頼されて選手をケアするスポーツトレーナーに良さを理解してもらおうと、社長とサンプルを担いで全国を走り回りました。人づてにスキー(モーグル)のトレーナーを紹介してもらい、商品の良さを訴えて試供品を使ってもらったところ、「寝返りがスムーズにできるのは、アスリートの腰痛対策にいい」と、高く評価してくれました。これをきっかけに、モーグルの選手やトレーナー仲間、スケート(ショートトラック)の選手らへと、使ってくれる人がわっと広がりました。特にフィギュアスケートの浅田真央さんが使ってくれるようになったのは大きかったです。スポンサー契約をしていなかった浅田さんが、遠征先にもエアウィーヴを持ち運ぶシーンが報道で流れるようになり、徐々に認知度が高まりました。

 その後は、航空会社や旅館・サービス業界にも、「こんなものが欲しい」と言われればすぐサンプルを作って持っていくというアプローチを繰り返し、今では、JALのファーストクラス、加賀屋をはじめとする高級旅館などでも使っていただいています。こうした“一流どころ“を狙うアプローチも、「実績づくり」という戦略の一環です。良いものでもそれだけでは売れない。「高品質なものだから選ばれた」という分かりやすい実績を見せることが重要なのです。

商品を自己紹介する文章も、特徴ではなくて、実績をPRするものに変えます
商品を自己紹介する文章も、特徴ではなくて、実績をPRするものに変えます

―― 実績を積んだあと、具体的にはどのようにPRするのでしょう?

笹木 次はそれを消費者に伝えるPRです。当時はSNSがまだ今ほど情報ツールとして発達していなかったので、雑誌やテレビで取り上げてもらうにはどうしたらいいか、を考えました。電話帳片手に雑誌編集部やテレビ局を調べ、片っ端から電話して説明に回りました。

 ですが現実は厳しく、なかなかメディアに会ってもらえなかったり、会っても記事にならなかったり、が続いて。毎週、当時会社のアドバイザーでありマーケティングに精通している田所邦雄さんに時間をもらっては相談しました。それでもPRし続けることが必要だと諭され、負けず嫌いの私は与えられた高い目標に食らいつき、メディアにアポを取り続けました。その中で分かったことは、メディアは苦労話や開発秘話が好きということ。エアウィーヴには、商品特徴などを紹介するための店頭配布用のキレイなパンフレットもありますが、それを配るだけでは、他社の商品との違いも印象に残らず、なかなかメディアに興味を持ってもらえません。そこで、資料を別に作ることにしました。