「暗く反省しても誰もついて来ない。(中略)だから、楽しんでいる奴が勝ちなのだ。」(『69』村上龍より)

 そう。独立したからには、しばらくは意地でも楽しいフリをしようと、私は決めていました。例えば「どう? フリー」と聞かれたら「楽しいです! なんでみんなフリーにならないんだろう」と答えたし、「もうかってる?」と聞かれれば「おかげさまで!」と決して否定しないようにしていました。

 元来、私はどちらかというとグチっぽい人間なので、それまでなら「いやあ、大変ですよ」「この前ギャラ値切られちゃって」などと自虐的なことを言っていたと思うのですが、そんなことを言った瞬間「こやま、うまくいってないらしいよ」という噂になってしまう。

 もっとも会社員だったらそれでもいいかもしれません。突出せず、敵じゃないと思われたほうが、愛されて生きていけるかもしれない。けれどフリーになると、ネガティブな噂は命取りです。一度流れた評判は数年消えないし、そんな負のイメージの人間に、外注してまで人は仕事を頼みたいと思うでしょうか。

 もしも誰かが「こやま、どうしてるのかな」と聞かれたら「なんか楽しそうにやってるよ」と答えてもらう。最初の数年間は、とにかくそれを目標にしていました。