人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。小説家、湊かなえさんの最終回です。自信を取り戻すために書き始めた湊さん。川柳の投稿から始め、脚本、小説に挑戦。受賞、デビューを果たし、ヒット作を書き続けていきます。
(1)旅とアウトドアに熱中した学生時代
(2)トンガに赴任。31歳、執筆に挑む
(3)産み出した作品に後悔はない ←今回はココ

第3回となる今回は、何かに挑戦してみようと決意した31歳から、今に至るまでのことを書こうと思います。
子どもを1人授かることはできたけれど、2人目はもう無理かもしれない。そう考えれば考えるほど、自分に欠陥があるように思えてきて、出産とは関係のないことにまで、自信が持てなくなってしまいました。
何かしよう。何かしなければならない。思ったその瞬間から、今度はそれを実現しなければならないという気持ちに支配されてしまいます。とはいえ、淡路島には文化教室のようなものがあまりありません。今日からでも始められることは何か。
家を新築する際に、台所の横に作ってもらった「奥様うきうきスペース」なる2畳ほどの空間を眺めると、ノートパソコンが目に留まりました。30万円近くした、独身最後の高額な買い物だったのに、まったく有効活用できていないこれを、今こそ使うべきではないか。
何かを書こう。そう決意し、翌日、雑誌『公募ガイド』を買いに行きました。私でも書けることは何だろう。まずは短いものを、と雑誌内の川柳コーナーに応募してみることにしました。お題は「カバン」です。直接、カバンのことは書かない方がいいんだろうな、などと考えて、こんな川柳を投稿しました。
『色あせた 映画の半券 時止める』
これが最優秀賞を獲得します。賞金3000円、バッグを買いました。新しいことに挑んで評価された。小さなコーナーでしたが、当時の私には大きな自信となりました。