人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。エステー代表執行役社長(COO)の鈴木貴子さんは、小さなころから心豊かな暮らしに憧れ、早く自立した大人になりたくて、中学生のころから自分で計画しては旅に出ました。大学卒業後は得意な語学力を生かして自動車メーカーの海外部門へ。ですが、この仕事に向かないのではと迷い始めます。
(1)仕事でミス連発、迷える20代 ←今回はココ
(2)「デザイン革命」のためエステーへ
(3)社長の「役を演じる」で成長できる
エステー 代表執行役社長(COO)

父の誠一が創業したエステーの社長に就任したのは2013年のこと。3人姉妹の末っ子の私が社長になるとは、想像もしなかったことです。
消臭芳香剤や防虫剤など、弊社が扱うのは暮らしに密着する消耗品です。購買層は、値段は安いほどよいと考える層と、高くても生活を豊かにするモノを求める層との2極化が進んでいます。
衣食住を好きにそろえられる大人に早くなりたい
振り返ると、私は常に「心豊かな暮らし」を意識しながら生きてきたように思います。
私が育ったのは、経済成長が右肩上がりのなか、モノは、質より数を供給することが優先だった時代。今でも思い出すのが、自宅のアルミサッシです。「日本は森林資源が豊かなのに、なぜ木枠でなく、こんな無機質なサッシを使うのかな」と子ども心にも不思議でした。
質実剛健な父のモットーは、質素倹約。「ぜいたくは敵だ」という考え方でしたから、家の中に、心豊かな暮らしを感じさせるものはありませんでした。
その代わり、父のアイデアがあふれていました。薬の空き瓶に調味料を入れ、瓶の蓋の上面を台所のつり戸棚の下に取りつけて収納したり、5人家族で食事しやすいように中華料理店にある回転テーブルを置いたり。
そんな暮らしの工夫は私も好きでしたが、「私だったらテーブルの色はこうしたい」というようなことを常に感じていました。好きなものに囲まれていたら、もっと心豊かに過ごせるはず、と。
早く自分で稼いで自立して、衣食住を好きにそろえられる大人になりたい。そのために学校に真面目に通い……と言いたいところですが、実は私、遅刻・欠席が多い子でした。授業中はほとんど居眠り。ずる休みもしていました。そんな私を母は叱ることなく、「腹痛」など、嘘の欠席理由を連絡帳に書いてくれたものです。