人生には思いもよらぬことが起きるもの。肩の力を抜いて柔軟に「私の生き方」を見つけていこう――。先輩たちが半生を振り返って贈る、珠玉のメッセージ。日経WOMANの看板リレー連載を、日経ARIA読者にお届けします。フリーアナウンサー、草野満代さんの第3回です。独立後、ニュース番組のキャスターとして多忙な日々を送りながらふと、自分が本当に好きなことは何かと考えるようになった草野さん。ニュースの現場をいったん離れてから、自分が関心を持っていたさまざまなことが見えてきたといいます。
(1)話すのが苦手な私がアナウンサーに
(2)男性社会から自由に、29歳で独立
(3)本当に好きなことに気づいた40代 ←今回はココ

NHKを辞め、『筑紫哲也 NEWS23』のサブキャスターになってしばらくたったある日のこと。「草野さん、頭、脱毛してますね~」
若いヘアメイクさんがあっけらかんと言った「脱毛」とは「10円ハゲ」のこと。その頃2カ月近く、私は人生初の10円ハゲに悩まされていました。ハゲができたことを認めたくないから誰にも言わず、バレないようにロケでは風に気を付けながら……。
当時の私は、フリーランスで仕事をしていくことに必死でした。それまで大きな屋根のある安全な場所でぬくぬくと過ごしてきたのに、雨風にさらされる場所に自分から出てしまったわけですから。しかも、フリーランスの評価は基本的には減点法。そこそこの結果では評価されないし、一つのミスが命取りになります。でもその道を選んだのは私だからと、へこたれないように踏ん張っていた結果が10円ハゲ。表面的には元気に明るく振る舞っていましたが、体は正直だなと思ったものです。

NEWS23に参加して、まず度肝を抜かれたのは、メーンキャスターの筑紫さんが堂々とご自分の主張をされていたことでした。私がいた頃のNHKでは、アナウンサーが自分の主張をすることはありませんでした。でも筑紫さんは「多事争論」という90秒のテレビ・コラムを通して、毎日あらゆるテーマについて持論を展開していらした。しかもこのコーナー、原稿が一切ないんです。「一度言った言葉は取り返しがつかない」という生放送の怖さを知っている身としては、視聴者のさまざまな立場や意見に配慮しながらも、踏み込んだ主張をする筑紫さんの姿に圧倒されました。そんな偉大な方のそばで仕事ができたことは、今もキャスターとしての私の自負につながっています。