理屈抜きで心引かれるドビュッシーの旋律
そのときに弾いたのが、ドビュッシーの「喜びの島」です。ドビュッシーは、小学生のときに初めて弾いて以来、なぜかすごく気が合ったんです。ドビュッシーの曲には、ドレミファソラシの7音の音階ではなく、1オクターブを5つの音で構成する「5音音階」という技法が用いられています。日本を含めたアジアの音楽も、もともとは5音音階なので、ドビュッシーの東洋的な響きに、何となく遠いつながりを感じるのかもしれません。
オーディションに向かう前、電話で話した母からは「今までの人生で一番うれしかったことを思い浮かべて弾いたらいいわよ」と言われました。いざホールのステージに立つと、目の前に並ぶ審査員の真ん中に、三善さんが座っていました。ずっと会いたかった人が目の前にいる。私にとってこの瞬間が、人生最高の喜び――そう思って弾いたら、合格したんです。
プロデュース公演には縁あって翌年も出演し、その際に三善さんから、長岡リリックホールの事業部で企画制作や広報の職員を募集することを教えてもらいました。英語が必須ということだったので、アルバイト生活をしながら猛勉強。無事採用されました。
コンサートホールの事業部って何でもするんですね。主催公演の企画はもちろん、宣伝やチケットの販売、企業へ協賛のお願いにも行きます。そのときにさまざまな市民の方たちと触れ合う中で、「多くの人にとって芸術は遠い存在なんだな」ということを実感しました。
多くの人がクラシック音楽の素晴らしさを身近に感じ、スポンサーは芸術に対して寄付をすることにメリットを感じる……。そんな、文化、社会、経済の3つのトライアングルが響く国になるよう努めたいという思いが芽生えました。それが、今の仕事につながっています。
続きの記事はこちら
⇒ウォール街のトップが集まるNYフィルの公演は外交の場
取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子
アーモンド 代表取締役
