自分の限界を知り、演奏家をサポートする側へ
その後も僕は来る日も来る日もピアノの練習を続けましたが、どんなに練習しても、あのヨッフェ先生のいる世界は見えませんでした。でも、ピアノを演奏することが僕を引き付けるものであることに変わりはないですし、とことん練習して自分の限界が分かったからこそ、一流の演奏家の人たちを心から尊敬できるようになりました。
音楽と工学をかけ算して、彼らが自身の音楽を深められるようサポートするほうに回りたい。それが、音楽表現そのものよりも身体にアプローチするほうに興味が向いたのは、自分が練習しすぎて手を壊したことがきっかけでした。
手が痛くてピアノが弾けなくなったとき、何が問題か考えて、最初は湿布を貼ったり、整形外科へ行って肩をけん引してもらったりしました。でも一時的にはよくなっても、練習するとまた痛くなる。本当は弾き方や練習方法を見直さなければいけないのに、対症療法しかしていなかったのです。
では、根本について誰か研究しているのかなと思って調べてみると、教育の話はいろんな方がしているけれど、「こういう理由で、体はこういう使い方をしたほうがいいですよ」という話を根拠に基づいてする方は誰もいませんでした。
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取材・文/谷口絵美(日経ARIA編集部) 写真/鈴木愛子
古屋晋一
ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチャー
ソニーコンピュータサイエンス研究所 リサーチャー
