フルスピードで走り続けてきた人生の中間地点に立っているARIA世代。これからどう働いてどう生きようか、何を終わらせて、何を始めようか。人生100年時代の真ん中で、自身にとって「本当に価値あるもの」をどう定めるか。気鋭の建築家として、世界を股にかけて活躍する永山祐子さんのプラチナ・ストーリー。後編では、人生において価値を置いているものと、それを貫く姿勢について伺います。
前編『永山裕子「建築家は伝える仕事」磨いたコミュ術』
自宅設計の際に価値を置いたのは「家族のつながり」
お話を伺った場所は、2年前に完成した永山さんの自邸「杉並のいえ」。専門誌やインテリア誌でも取り上げられる素敵な邸宅は、築40年以上のマンションの2フロアをリノベーションしたものだ。隅々までこだわりが込められた自宅設計の際に、価値を置いたのは「家族のつながりを感じられること」。それは、多忙を極め、子どもたちと過ごす時間が貴重である永山さんの「家にいる時はとにかく一緒にいるという意識を強く感じたい」という願いでもあった。

125㎡の広い空間に立つ大きな柱2本を起点に、可動式の仕切りでリビングスペースと寝室に分けているが、ワンルームのためどこで何をしているかお互いにすぐにわかり、常に家族の気配を感じられる。見えないのはトイレだけ。永山さんや夫が一人で子ども2人の面倒を見ることが多いため、見通しがよく、作業しながらでも子どもをケアしやすいように設計された。今の家族のあり方にフィットする家づくりとなっている。
自宅づくりは永山さんの価値観の変化がダイレクトに反映されている。ずっと仕事第一だった永山さんだが、出産して以降、人生において重きを置くものが変わったという。「働きながらなので子どもに多少の犠牲は強いていると思うので、一緒にいられる時はできるだけ一緒に過ごしますし、そのために仕事の調整もします。人生における優先順位は変わってきましたね」
変わりゆく家族のあり方にアジャストできる住宅を
そうして、家族のあり方を第一にして作られた家は、2人の子どもたちも大のお気に入り。「上の子は外に行くよりも家にいたがるので、出不精気味です。旅行から帰ってきても、やっぱりおうちはいいなぁなんて言って。気に入ったおもちゃがあるからということが一番の理由かもしれませんが」と笑う。部屋の三方をぐるりと囲む広々としたテラスには、ハーブや実物など植物がたくさん植えられ、見晴らしのいいビューも相まって最高の“天空の庭”。ここも永山さんがこだわった部分だ。「家にいながら、テラスに出たり窓辺にいたりとシチュエーションを変えられるので、外出しなくてもリフレッシュとリラックスができるんです」

また、永山さんが依頼を受けて住宅を設計する際に大切にしているのは、住む人が何かに気づくきっかけになるような建物であることと、ライフステージに合わせて変化できる家にすること。キッチンの奥に坪庭のように植栽をあしらうことで季節の移り変わりを日々発見できたり、子どもがいる家庭ならば、子どもが小さい頃、成長期、子どもが自立して夫婦二人に戻った後、それぞれの環境やライフステージの変化にアジャストできるよう、可動性を持たせることを意識したり――「長い年月を過ごす場所だからこそ、気持ちよく過ごせるように、住む方の好みや、誰とどう過ごしたいかのシチュエーションを聞きながら作り上げていきます」