英国BBCが毎年発表する、世界に影響を与えた「100人の女性」に2020年、唯一の日本人として選出された今田酒造本店社長・杜氏の今田美穂さん(59歳)。「広島杜氏」の伝統を継ぐ安芸津町の地(東広島市)から、国内外で高く評価される日本酒を送り出しています。東京で働いた後、広島に戻り実家の酒蔵を継いで27年。日本酒を巡る変化と酒造りへの思いを聞きました。
―― 2020年11月、英BBCの「100人の女性2020」に日本人女性として唯一、今田美穂さんが選出されました。突然のお知らせだったそうですがその後、お仕事上や身辺で影響はありましたか。
今田美穂さん(以下、敬称略) 周囲もすごく驚いていましたが、本人が一番びっくりしています。なぜ日本酒業界から? しかも地方の酒蔵が? と。
ただ、これをきっかけにオンラインの売り上げが伸びて「日本酒、ちょっと飲んでみようかな」と思ってくださった方がかなりいらっしゃったのはうれしかったですね。
もともと昨年は新型コロナの影響で日本酒の業界は大変でした。特に私たちが造っているような地酒、クラフト酒といったものは流通経路が地酒専門の酒店や飲食店に限られるので、コロナによる売り上げへの打撃は大きかったんです。蔵だけでなく酒米農家さんまでダメージが広がっています。
それに、熱心な日本酒ファンの方は多いのですが、普段日本酒を飲まない方に造り手から広くメッセージを届けるのはなかなか難しいと日ごろ感じています。そんな中、全く違うところから注目していただいたので、他の酒蔵さんや酒販店さんからも「年末に明るいニュースでよかった」と言ってもらえました。

全国約1200の酒蔵で女性は約40人
―― 選出の理由として、伝統的に女性が排除されてきた日本酒造りの世界で、数少ない女性杜氏として活躍していると紹介されていました。
今田 現在、稼働している酒蔵は全国に約1200あり、統計の数字はないのですがその中で女性の杜氏は40人ぐらいかと思います。私が始めた当時は、広島県では2人目でした。
私自身は、女性だからという理由で仕事上不都合があったり排除されたりしたことはなかったですね。ただ他の地方では、女性は蔵に入ってはいけないとか、入ると怒られたという話も聞くので、それぞれの酒蔵の背景によると思います。
もともと酒造りは、地域によっては冬の農閑期の出稼ぎ仕事でした。力仕事でもあり、何カ月も集団で寝食を共にするので、その中に女性が入ってトラブルが起きるのを避けたという理由もあるでしょう。
広島では酒造りが農閑期の仕事というよりは、腕が良ければ稼げる専門職の仕事という位置付けだったと思います。女性だからと堅苦しく考えないのはそういうところからも来ていると思います。
