河瀬 人に任せられなくて、自分一人でどう乗り越えていけばいいのか、撮影中は分からなかった。ただ、とにかく完成させなきゃいけないと思って、そこまでは踏ん張って。その結果、カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞することができたことが、すごく自信になりました。
映画は、私に影響を与えてくれる「もう1つの人生」
―― 河瀬さんにとって、映画作りはどんな意味を持つのですか? もしかして映画を作ることで自分を救済している?
河瀬 いや、映画をそんな道具にしたくはないので。いうなれば、自分のリアルな人生があるとすると、もう1つの人生である「映画」が、私のリアルな人生に影響をもたらす。そんな相関関係にある。(自分が作った映画に)影響を受けて強くなった自分が、また新たな映画を構築していく。そんな相互関係にあります。映画は私のもう1つの人生です。
―― ならば、映画を撮るのは本能? それとも使命ですか?
河瀬 うーん、本能……? 本能……。どうかな。ちょっとの差で「使命」かな。自分が予測もしないテーマが下りてくることもある。例えば、樹木希林さん主演の『あん』(15年)も原作者であるドリアン助川さんから映画化の話が私に舞い込んだ。『2つ目の窓』を撮ったのも使命だと思うんです。30代半ばまで私の祖先が奄美大島の出身で、私のルーツが奄美大島にあるとは知らずに過ごしてきた。その10年後に、その奄美大島で映画を撮っているなんて、何かに導かれているような気がするんです。
取材・文/若尾礼子 撮影/西岡 潔