地元コミュニティーの築き方
東京・墨田区。下町の雰囲気が残る森下・両国エリアの住宅街の一角、築55年の古いビルの1階に、地元の人がふらりと立ち寄るカフェ「喫茶ランドリー」がある。大きなガラス扉から見える店内には、洗濯機を回す人、アイロンがけをする人、ゆっくりとカレーを食べる人、そして、母親を探して店をのぞく子ども。人の“気配”を感じられる一角、それが、田中元子さんの考えるコミュニティのあり方だ。
「タダでふるまう」ことで知った、底無しのワクワク感
編集部(以下、略) モダンだけど心地よいごちゃごちゃ感。おしゃれなのにどこか懐かしい実家風。「喫茶」×「ランドリー」という場には、シングルの人、主婦、お年寄り、いろんな人が集まるそうですね。お店を始めるに至った経緯は?
田中元子さん(以下、田中) 私は建築関係の記事を書く仕事をしていました。神田の古いビルの4階に事務所を構えたときに、隅にシャレでバーカウンターをつくったことがあるんです。バーの内側に入って友達をもてなしてみたくて。
DIYは得意じゃないので、IKEAで探した作業台や家具を組み合わせてバーらしきものをつくって、友達にカクテルを作ってふるまったら、とにかく楽しかった! 1円もお金をもらわない分、いくらかかったとか損したとか煩わしいことに振り回されず、「またおいで!」と気持ちよく言える、さっぱりとした「趣味」でした。
田中 ある時、これを街でやったらどうかな? と思いつきました。
もともと建築や都市が好きで、街角に移動式バーを置いたらどんな変化が起きるだろうという好奇心があって。ままごとの延長でお花屋さんをやってみたい、ってノリです。
ビジネスパートナーでもある建築家の夫は、何を言い出すんだ?とけげんそうでしたね(笑)。でも、夫に伝えようと話をするうちに、私はこういうことがやりたいんだと言語化されていき、形になった感じです。
―― 街ではどんな「バー」を始めたんですか?
田中 街行く人に「コーヒーいかが~?」と声を掛けて無料でふるまう「フリーコーヒー」です。初対面の人に対して無料で?と驚かれるのですが、商売にするのではなく、「タダでふるまう」ことで、かえって心が落ち着くことが、事務所バーの経験で分かっていたからです。さらに、誰かに一方的に与えていくことでしか得られない壮大な面白さも実感していました。ボランティアや献身的、というのとは全く違います。
―― タダでふるまう醍醐味とは?