知らないと損する ARIA世代の健康・新常識
前編では、日本人女性のがん死亡数上位3位の大腸、肺、膵臓(すいぞう)について、がん検診の実情に詳しい近藤しんたろうクリニック院長の近藤慎太郎さんに聞いた。後編となる今回は、4位の胃がん、5位の乳がんについての素朴な疑問をぶつけたので、参考にしてほしい。
胃内視鏡とバリウム検査、どちらが有効?
Q 胃がん検診で、胃内視鏡とバリウム検査はどちらがいい?
A どちらかを選べるなら胃内視鏡を選びましょう
自治体の胃がん検診では、長らく胃部X線検査(いわゆるバリウム検査)が実施されてきた。これは、検査を受ける人があらかじめバリウム(造影剤)を飲み、バリウムが胃の表面を滑り落ちていく様子をX線で撮影して、ひだや隆起などの有無を観察するものだ。だが近年、胃内視鏡検査にも胃がんの死亡率を減少させる効果が明らかになったことから(*1)、近年は自治体の胃がん検診でもバリウム検査または胃内視鏡検査のいずれかを実施するようになった。人間ドックでも、バリウム検査か胃内視鏡を選べることが多い。
「バリウム検査か胃内視鏡を選択できる場合は、断然、胃内視鏡がいいでしょう」と近藤さんは言い切る。その理由は、胃内視鏡検査はバリウム検査と違って胃の内部を直接観察できる上に、胃の手前にある食道も観察できるからだ。
「バリウム検査では、飲み込んだバリウムは数秒で食道を通過してしまうため、食道を詳細に観察することができません。一方、内視鏡であれば、カメラを行ったり来たりさせたり、特殊な光を当てたりしながら、食道から胃までじっくり観察することができます。早期の食道がんの85%が胃内視鏡で見つかっており、バリウム検査で見つかっているのは11%にすぎないという報告もあります(*2)」(近藤さん)
バリウム検査ももちろん、胃がんの死亡率を減らす効果は実証されているが、胃がん発見の感度に関しては、胃内視鏡検査のほうが優るという報告もある(*3)。「胃内視鏡では見つけにくいスキルス胃がんという特殊な胃がんに関しては、バリウム検査のほうが見つかりやすいと言う人もいますが、確実なことは分かっていません」(近藤さん)
胃内視鏡検査の欠点は、「オエッ」という吐き気(嘔吐[おうと]反射)が出て、人によってはかなり苦しく感じられることだろう。また、頻度は低いながらも、消化管の出血や穴が開く(穿孔[せんこう])などの医療事故のリスクもある(0.005%程度)。ただ、嘔吐反射については、疑問2で説明するような解決策があるので参考にしてほしい。
*2 Comprehensive registry of esophageal cancer in Japan (1998, 1999).
*3 Hamashima C, et al. Int J Cancer. 2013 Aug 1;133(3):653-9.