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神奈川県相模原市。小田急小田原線の最寄り駅からバスで7分、1965年に初めて開発されたという相武台団地は分譲と賃貸を合わせて約2500戸ある郊外型の大規模団地だ。
大きなケヤキの木がシンボルになっている広場を囲むように、かつて団地内は魚屋、精肉店、八百屋……と多くの店でにぎわっていた。だが、住民が高齢化し、単身世帯が増えるのに伴って商店街はシャッター街へと変わっていった。全国の団地や地方都市で同じような問題が起きている。
そんな相武台団地を再生させようと、ここ数年、いくつかの店が新たにオープンしている。その第1号が、昭和のレトロな雰囲気を生かしておしゃれにリノベーションされた「ひばりカフェ」。オーナーは佐竹輝子さん(69歳)だ。
「ここに来たら、おしゃべりできる」
取材した日は雨だったが、午前10時の開店からほどなく1人のお客さんがやってきた。すぐに佐竹さんが声をかける。
「あら、ウエノさん、おはよう。今日は早いね。コーヒー?」
「そうだね。雨が少しやんでよかったよ」
聞けばウエノさんは95歳。保険の外交員を長年続けたバリバリのワーキングウーマンだったそうで、団地に住んで45年。子どもたちはとうに独立して今は1人暮らし。遠出する予定がない日は必ず、ひばりカフェを訪れる。「今の時代、団地に長く住んでても、同じ階の人とあいさつすらしないからね。1人じゃつまんないでしょ。ここに来たら、おしゃべりできる。ここの人たち、いい人だからね」
佐竹さんや店のスタッフとたわいない日常会話を交わし、コーヒーを1杯飲み、テラスへ出てタバコをふかす――。ウエノさんのような常連同士は、自然と顔見知りになり会話が生まれ、姿が見えないと互いを心配する関係になるという。人と人とをつなぐ場。安心しておしゃべりができる場。これこそが、佐竹さんが定年後の第二の人生をかけてつくりたいと願ったものだった。
ひばりカフェがオープンしたのは2015年の12月。「その年は、記憶があいまいなくらいに忙しかった」(佐竹さん)。飲食店に関わった経験は一切なく、会計事務所に勤める会社員として60歳の定年近くまで25年間働いていたという佐竹さん。それが64歳で初めてカフェのオーナーになったと聞けば、準備のための忙しさは想像に難くない。だが、忙しさの理由はそれだけではなかった。「その年の5月に、2年近く闘病していた夫が亡くなったんです」――。