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英国ロイヤル・バレエにプリンシパル(最高位)として在籍し、世界的なバレエダンサーとして活躍した吉田都さん。2020年9月からは新国立劇場の舞踊芸術監督として新国立劇場バレエ団を率いています。吉田さんにとっては、初めてのリーダー経験。しかも、新型コロナウイルス禍というショービジネス界には厳しい環境で、どのようにバレエ団をまとめているのでしょうか。話を聞きました。
リーダーには向いていないと思っていた
編集部(以下、略) 芸術監督は、バレエダンサーとは異なる成果を求められる難しい役割だと思いますが、就任の話が来た時はどのような心境でしたか?
吉田都さん(以下、吉田) まず、とても不安でした。英国ロイヤル・バレエの同僚には、ディレクター(芸術監督)を目指して勉強しているダンサーもいましたが、それを横目で見ながら、私は全くそういうタイプではないと思っていました。
でも、お話をいただいてからいろいろと考えた結果、引き受けることにしたんです。日本に帰ってきて日本のバレエ界の現状を知り、英国との差に驚いていたのですが、ここでならその差を解消できるのではないかと思ったんです。
いざやってみたら「ああしたい、こうしたい」というものが山ほど出てきて、自分でも驚きました。
―― 日本のバレエ界のどのようなところを変えたいと考えていたのですか?
吉田 まずは踊りの質を上げることです。特に、日本のバレエダンサーは、ダンサーとしての基本的な技術は高いけれど、表現することや演技が苦手だということがとても気になっていました。また、ダンサーが働く上での環境整備にも取り組みたいと考えていました。
例えば、きちんと給与を払える体制を整える、踊りに集中できるように医療体制を整える、といったことです。英国のダンサーが月給制なのに対して、日本のダンサーは公演ごとの契約なので、ケガをしたときの保障は少なく、将来もらえる年金も多くはありません。経済的な基盤がとても弱いのです。新型コロナウイルスなどの影響で舞台がなくなると、その脆弱さがよりあらわになりました。
新国立劇場の場合は、稽古期間を経てリハーサルに出れば、その分の報酬が支払われますし、トゥシューズも支給されますが、英国などの環境に比べて十分とはいえないのが現実です。
また、英国では理学療法士などの医療スタッフが常駐し、ケアしてくれる専門のドクターもいますが、日本にはそれもありません。ダンサーが一息つくような場所もないですし、リハーサルスタジオも少なすぎます。