自分が、家族が、部下が… がんと共に働く
「がん」と診断されて衝撃を受けない人はほとんどいない。中には眠れない、食欲がない、気分が落ち込む、という期間が長く続く人もいる。がんは、本人だけでなく家族や近しい人たちの心にも大きな影響を与える。
その一方で、がんに対する本人の心構えや、周囲からの心理的な援助が、がんの予後に影響することも研究から分かっている。そうした背景から米国で1970年代に誕生したのがサイコオンコロジー(精神腫瘍学)。日本のサイコオンコロジーの第一人者、保坂隆さん(保坂サイコオンコロジー・クリニック院長)に「がん」と診断されたときの心理状態の推移や対処、周囲の人ができるサポートについて聞いた。
―― 自分が「がん」と診断されたときに、知っておいたほうがいいことは何でしょうか。
保坂 隆さん(以下、敬称略) まず、がんだと告知されて「迷惑をかけるから仕事を辞めなきゃ」と考える人。うちのクリニックに「退職届を出してきました」と言って来られる患者さんがいるんですが、仕事と治療は両立できます。仕事は辞めないで心のケアを受けましょうと言いたいですね。
がんですと言われたら、ショックを受けて、落ち込んだり不安になったり混乱したりする段階がまず来ます。その段階では自分で何かできることは特にありません。瞑想(めいそう)とかヨガとか呼吸法とか運動とか、そういうのはすべて、ある程度乗り越えた後でできることです。最初はショックで何もできないと思っておいたほうがいい。