Withコロナ時代の 感情マネジメント
業績的に厳しい状況でも、コロナ禍のように仕事への取り組み方自体が制限される環境でも、社員が互いの意見をぶつけ合い、建設的に議論を深め合える組織をどうしたらつくれるのか。そんな悩みの処方箋が「心理的安全性」にあると見て実践を続けてきた、マイナビ紹介事業本部キャリア開発部で部長を務める黒澤康子さん。1年以上にわたる挑戦とこれまでの成果について話を聞きました。
健全な衝突のある企業から転職してきて直面した、「協調性の高い」職場
―― どのような経緯で「心理的安全性」の導入に取り組むことにしたのか、これまでのキャリアと合わせて教えて下さい。
黒澤康子さん(以下、敬称略) 私は1993年に新卒でJRグループのシステム系企業にシステムエンジニアとして就職し、最初にみどりの窓口のシステム開発業務を担当しました。国鉄の分割民営化から6年目でしたが、当時のシステム部門にはまだ、初期開発を担ったパイオニアの先輩たちがたくさんおられ、彼らの仕事ぶりは、新卒の私が見ても「魂の込められた」ものに見えました。
その頃の先輩方は、役職・学歴にかかわらず一体感がありました。同じ釜の飯を食いながら歴史に残る仕事をした仲間という感覚を共有しているためか、どんな話も率直に言い合える。ここだと思った時の「説得する力」が強いのです。女性社員は全体の1割という環境でしたが、新卒の女性でも「黙ってないで何か意見言え」と言われる中で育ちました。私の仕事観や組織観はこの新卒当時にすり込まれた体験をベースに築かれたと思います。
その後、いくつかの会社を経て2012年にマイナビに入社しました。その頃には私も社会人歴20年超、管理職としてチームを率いる立場になっていました。ですが、自分の組織観で部下と接していると、時折「厳しすぎる」と言われ、部下との心理的な距離を近づけることに苦労しました。
自分とは違うタイプの部下との間に「意思疎通の壁」
黒澤 当時私の部署にいた社員のソーシャルスタイル(※)を調べると、6~7割が「エミアブル」といわれる、協調性や親和性を大事にするタイプでした。このタイプの人は、相手の気持ちに目配りができ、第三者からの指摘は素直に受け入れるが、あまり自己主張しない、とされています。一方私は、感情表現や自己主張が旺盛な「エクスプレッシブ」タイプ。
つまり、自分とタイプの違う部下が多数派であり、押しの強い自分とは、意思疎通の壁のようなものがありました。私の中には「健全な衝突は議論を深めるし、仕事の質も上がる」という思いが強く、メンバーへの接し方も熱くなりすぎていた面があり、それが彼らには一種の「圧力」のように感じられたのかもしれません。
同じ頃、生産性・成長性の高い組織の鍵は「心理的安全性」にあると、某社のプロジェクトが結論づけたということを知りました。ここに自分と自分のチームとの壁を破る鍵があるんじゃないか、と思っていた時に、「⼼理的安全性認定マネジメント講座」に出合い、思い切って参加してみたんです。2019年8月でした。
※ソーシャルスタイル/心理学者デビッド・メリル氏が提唱したコミュニケーション理論。「感情表現」と「自己主張」の強弱をもとに、自分の思っていることをはっきり言える「エクスプレッシブ」、協調性を大事にする「エミアブル」、理論や根拠を大事にする「アナリティカル」、プライドが高く目的志向の「ドライバー」の4つのタイプに分類される。