「いつまでも若々しくありたい」「自分の足で歩き続けたい」──。そうした願いを実現する老化研究のなかで、いま最も注目されているものの1つが「老化細胞」とその除去について。体内の老化細胞を減らして老化を遅らせることは可能なのでしょうか。最新の研究事情を東京大学医科学研究所の中西真教授と順天堂大学大学院の南野徹教授に聞いていきます。

最近、目元の笑いジワが消えなくなった。40代なのに人間ドックで「血管年齢60歳相当」といわれた……。
年齢を重ねるにつれ、たいていの人は「老化」について漠然とした不安を持つようになる。そのうち「いつか死ぬのはしょうがない」と思うようになっても、できれば命が終わる直前まで元気でいたいと思うはず。いわゆる「ピンピンコロリ」願望だ。超高齢社会ニッポンでは「いかに健康寿命を延ばすか」が大きな課題となっている。最新の医学研究では、「老化にあらがい健康長寿を実現する研究」はどこまで進んでいるのだろう。
東京大学医科学研究所の中西真教授は「なぜ老化するのかという問いに答えることはできないが、私たちの体の働きが年齢とともに変化するメカニズムの解明については、近年大きな成果が得られている」と話す。
なかでも世界中の研究者が取り組んでいるのが、体内のさまざまな臓器で老化を進めている張本人ともいえる「老化細胞」の研究だ。
眠るように増殖を止め、がん化を防ぐ
「老化細胞」は培養細胞の研究で生まれた言葉だ。新生児から得られた細胞を研究室で培養すると、最初はどんどん分裂するが、50~70回ぐらい繰り返すと分裂を止めて休止する。これを老化細胞と名づけた。その原因は染色体の末端にあるテロメアという領域。テロメアは細胞分裂を行うたびに短くなり、ついには分裂できなくなるため「老化時計」といわれることもある。
私たちの体の中の細胞は、テロメア以外の理由でも老化細胞になることがある。今世紀に入って、それが加齢によって増える病気と深く関わっていることがわかってきたため、注目の研究テーマとなった。
順天堂大学大学院の南野徹教授は「私たちの体内で紫外線や活性酸素によって細胞内のDNAが傷ついた場合、細胞は一生懸命修復する。放っておくと無秩序に増殖する『がん細胞』になってしまうからだ。しかし、修復が間に合わないほど傷ついたとき、細胞は2つの方法をとる」と解説する。
一つはアポトーシス(細胞死)といって細胞が自ら死んで壊れ、免疫細胞によって除去される方法。そして、もう一つは、とりあえず細胞分裂をしない老化細胞になることで「がん化」を防ぐことだ(下図参照)。
南野教授は「老化細胞は、自らの細胞をがん化させないために、ヒトを含めた高等生物の進化の過程で生まれた現象であると考えている専門家は多い」と指摘する。
