「パソコン作業をしていると目が乾く」「ゴロゴロする」「1時間おきに目薬が必要」……。日本人の3人に1人が持っているドライアイ。症状の原因について多くの人は「涙の水分が足りないのでは」と考えているかもしれない。しかし、実は10年も前にドライアイについての常識は変わっている。水分の不足より、目の表面を覆って水分の蒸発を防ぐ油を分泌する働きが低下する「マイボーム腺機能不全(MGD)」がドライアイ発症のより重要なメカニズムであることが分かり、マイボーム腺の働きを改善する新たな医療やセルフケアの方法が次々と登場した。さらに今年2月10日には「マイボーム腺機能不全診療ガイドライン」が発表され、新しいドライアイ治療を誰もが受けられる環境が整ってきた。

まぶたの先から「目を乾燥から守る油」が分泌される

 目の働きを守るために「涙」は欠かせない。目の表面で透明なレンズの役割を果たす角膜を乾燥から守るとともに酸素や栄養を供給する働きがあるからだ。さらに、涙には角膜に付いた細かなゴミを洗い流す働きもある。涙腺から分泌される涙の成分はほとんどが水分だが、ほかに、膜構造を安定させるムチンという成分や、水分が蒸発しないようにその表面を覆う薄い油の層も含まれ、これらが合わさって涙液層(るいえきそう)となっている(図)。

 油を分泌するのは、上下まぶたの睫毛(まつげ)に沿って各20〜30個並んでいるマイボーム腺。まばたきをするたびに、涙腺からは水分、マイボーム腺からは油が供給されることで目は守られている。

眼球の断面と涙の構造
眼球の断面と涙の構造
涙腺から水分、マイボーム腺から油が供給され、目の表面を覆う「涙液層」が作られている

涙液層の異常と炎症の悪循環で症状は悪化

 ドライアイは、何らかの原因で水分や油の供給が滞ることで涙液層が破れて生じる症状だ。例えば、私たちはまばたきをせずにずっと目を開けたままでいることができない。角膜を保護する膜である涙液層が破壊されることで角膜が露出し、角膜知覚が刺激されて痛むためだ。

 「角膜は人間の細胞の中で最も知覚神経終末が多い部分なので、小さいゴミでもかなり痛みを感じるようにできています」と話すのは、伊藤医院(さいたま市)眼科のドライアイ専門医で、日本眼科学会の「マイボーム腺機能不全診療ガイドライン」作成委員会総括委員を務める有田玲子副院長。痛みにがまんできなくなるまでの時間をBUT(Tear Film Break-up Time、涙液層破壊時間)といい、正常な人なら10秒ぐらいは大丈夫。5秒以下は涙液層が非常に不安定な状態でドライアイが疑われる。

 涙液層の異常が続くと角膜や結膜の表面やまぶたに炎症が起きる。炎症は、マイボーム腺からの油の供給に影響を与え、涙液層をさらに不安定にするという悪循環をもたらす。角膜、結膜、まぶたの刺激によって「目がかゆい」「ゴロゴロする」「疲れる」といったドライアイの症状をもたらすのだ。また、ニキビの原因となるアクネ菌やニキビダニ(デモデックス)が睫毛の周囲にいると、まぶたに炎症を起こし悪循環を加速することも分かってきた。

チェック! 目を開けたまま何秒キープできる?

  • 10秒以上 … 正常
  • 5秒以下 … ドライアイの可能性あり
油不足によるドライアイの悪循環
油不足によるドライアイの悪循環