上下のまぶたの縁に並んでいるマイボーム腺から分泌される油の膜が、目を乾燥から守っている。ドライアイは、涙の水分が足りないタイプより、この油が足りないタイプの方がずっと多いという論文が発表されてから10年。効果の高いセルフケアが紹介されるとともに、油の分泌を促す治療法が登場している。「1時間ごとに目薬を差す」「パソコン作業が続けられない」といったつらい症状の人にも高い効果が認められる最新治療が「アジスロマイシン点眼液」と「ドライアイIPL光線療法」だ。治療を詳しく紹介するとともに、患者の素朴な疑問に専門医が答える。
ドライアイの新たな治療法が次々と登場
目の表面の透明なレンズである角膜の表面は、涙腺から分泌される涙で潤されているが、さらにその表面はマイボーム腺から分泌される油膜に覆われ、この油膜が目を乾燥から守っている。さまざまな原因でマイボーム腺の出口(開口部)で油が固まってしまったり、睫毛の周りにたまった汚れやアクネ菌、ニキビダニ(デモデックス)などにより発生したまぶたの炎症により油の分泌量が少なくなり、涙が蒸発しやすくなってしまうのが「マイボーム腺機能不全(MGD)」によるドライアイだ。2012年に発表された論文では、ドライアイの原因の86%はマイボーム腺機能不全であることが分かり、ドライアイの治療が大きく変わった。

治療の方向転換を一言でいえば「水から油へ」。不足した涙の水分を補う治療から、油を分泌するマイボーム腺の働きを正常化する治療が重視されるようになった。世界が認める治療の第1段階は、前編で紹介した「温罨法(おんあんぽう)」や「眼瞼清拭(がんけんせいしき)」によるセルフケアだが、症状に応じて病院の眼科などで行う新たな治療法も次々と登場している。
これまでマイボーム腺機能不全の研究と治療に取り組んできた伊藤医院(さいたま市)の有田玲子副院長が特に期待する新治療は2つ。1つは、マイボーム腺の上皮細胞に作用し油の分泌を促進することが証明された「アジスロマイシン点眼薬」。もう1つは、体を温めることでマイボーム腺のつまりを溶かす効果とまぶたの炎症を抑える効果がある「ドライアイIPL光線療法」だ。
セルフケアで不十分な場合は受診を
つらいドライアイで悩んでいる人は、まずは前編で紹介したセルフケアに取り組んでみよう。有田副院長は「温罨法も眼瞼清拭も効果が証明されたセルフケア。思っていた以上に効果が得られると思いますので、毎日、取り組んでみてください」とアドバイスする。
セルフケアだけでは症状が十分に改善しない場合は、マイボーム腺機能不全に詳しい眼科を受診し、自分のドライアイの原因を調べてもらおう。眼科では、涙腺から分泌される涙の量や涙液層の水と油のバランスを検査するとともに、上下のまぶたにあるマイボーム腺の状態を観察して「開口部がつまってないか」「開口部周辺に炎症はないか」「ニキビの原因でもあるアクネ菌やニキビダニによる炎症はないか」などを調べ、患者に合った治療を提案してくれる。
症状によっては、涙に含まれ涙液層を安定させるムチンを含んだ人工涙液の点眼薬(目薬)などで改善するが、つらい症状が続く場合、特にマイボーム腺機能不全がある場合は新たな治療が検討される。