週末や休暇にしたいこととして、山歩き、ゴルフ、テニス、旅行などを挙げる人も多いだろう。しかし、年齢とともに膝関節のトラブルが生じるようになり、「痛くて歩けない」「和室で座るのがつらい」…といった悩みを訴える人も増えてくる。変形性膝関節症は、はっきりとした症状を感じている人だけでも約1000万人いるという。悩む人が多いこの病気の、症状の進行度に応じた治療の概要と最新の治療法「PRP療法」の有効性について、順天堂大学の齋田良知特任教授に聞いた。

約1000万人が抱える膝の不調

変形性膝関節症の潜在的な患者は約3000万人いるとも推定される。写真はイメージ=PIXTA
変形性膝関節症の潜在的な患者は約3000万人いるとも推定される。写真はイメージ=PIXTA

 中高年になると「歩き始めに膝が痛い」「階段を下りるときに膝に違和感がある」「正座が苦手になった」といった膝のトラブルが増えてくる。ほとんどの場合、膝関節の骨が原因で起こる「変形性膝関節症」という病気で、厚生労働省によると自覚症状のある患者数は約1000万人。だが仮にレントゲン(X線)で膝関節の変化を調べたとしたら、約3000万人の患者がいると推定されている(*1)。

 変形性膝関節症は加齢とともに進行する病気で、痛みなどでこの病気と診断され治療を行っても、関節の状態は「後戻り」しにくい。順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)整形外科・スポーツ診療科の齋田良知特任教授は、「高齢者が膝の痛みで歩かなくなると、すぐに足の筋力が低下し、いわゆるロコモティブシンドローム(運動器症候群 *2)が加速して歩けなくなる。そうなる前に適切なケアを行うことで病気の進行を食い止めることが極めて重要。いくつになっても自分の足で歩けることを目指してほしい」と話す。

*1 厚生労働省「介護予防の推進に向けた運動器疾患対策について 報告書」(2008年)
*2 骨、筋肉、関節、神経といった運動器の障害により、移動機能の低下をきたした状態

膝関節の異変は無症状でも少しずつ進行する

 膝関節は、太ももの骨(大腿骨、だいたいこつ)とすねの骨(脛骨、けいこつ)をつなぐ関節だ。そして、この2つの骨の間にあり、歩いたり走ったりするときに必要なのが軟骨だ。軟骨は2種類あり、一つは関節表面を覆ってツルツルな状態にし、2つの骨が滑らかに動くようにする関節軟骨。もう一つは、関節の左右にある三日月形の半月板で、歩いたり走ったりするときに膝関節に加わる力を分散させる役割や関節の動きをスムーズにする役割がある。膝関節を包んでいるのは関節包で、その内部には関節液が存在し、関節軟骨に栄養を供給したり滑らかに動くのを助けたりしている。

図1:膝関節の構造と変形性膝関節症
図1:膝関節の構造と変形性膝関節症

 これまで「激しい運動」「関節をサポートする筋肉の減少」「加齢変化」などによって膝の軟骨がすり減ったり欠けたりすることが、変形性膝関節症の始まりと考えられてきた。しかし、齋田特任教授は「最近の研究では、怪我や加齢により半月板の弾力が低下し正しい位置からずれることにより半月板の機能が破綻し、荷重の分散や滑らかな動きができなくなることで軟骨のすり減りが起こることが分かってきた」と話す。弾力が失われた半月板は緩んだ輪ゴムのようになって関節からはみ出す「逸脱」と言われる状態になってしまう。O脚の人は、特に内側の半月板に負担がかかりやすいので要注意だ。

 軟骨がすり減ると、その破片などが関節液の中を漂い、関節包の内側にある滑膜に炎症を起こすとともに、関節に水がたまり痛みが生じる。進行すると大腿骨と脛骨の隙間が狭くなって関節の可動域が小さくなるほか、炎症の影響で関節にトゲ状の骨(骨棘、こつきょく)ができたり、軟骨の下にある大腿骨や脛骨が硬く変形するなど、どんどん進行していく。