栄養についての基本を勉強し直すこの連載。第3回は、前回に引き続きビタミンDを徹底解説していきます。骨を強く保ち、感染症やがんの罹患リスクとの関連で今、世界で注目を集めるビタミンDのさらなる役割とは?

(写真=123RF)
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 全身の臓器で使われるというビタミンD。骨を強く保つ働きだけでなく、近年では感染症やがんを防ぐ免疫調整機能で注目を集めてきた。さらに、今研究が進められているのが、寝たきり予防につながる、筋肉におけるビタミンDの働きだ。

 高齢になるにつれ体力が低下するのは仕方のないことだが、その低下スピードにはどうやら個人差があるようだ。その背景には活動量や意欲の低下を含めた心身の衰え「フレイル」があり、身体的には筋力低下の影響が大きい。

 そこで、国立長寿医療研究センター運動器疾患研究部副部長の細山徹さんらは、名古屋大学医学部の研究チームとともに、加齢に伴い筋肉の量や強さ(筋力)が低下するサルコペニアがどのように発症し、どのように悪化するのかを分子レベルで解析し、その予防や治療法の開発を見いだそうとしてきた。その一環として、サルコペニアという疾患を客観的に評価できるバイオマーカー(指標)がないものかと探索してきたという。

 「サルコペニアの診断基準は、筋力、筋量、運動機能の3つで見る国際的な評価法があるものの、運動機能の測定などは、世界中どこでも実施できるような、簡便で統一された方法が確立しているわけではありません。そのため、サルコペニアの診断や予防に役立つバイオマーカーを世界中の研究者が探索しています」と細山さんは言う。

 そこで、細山さんらの研究チームが注目したのがビタミンDだ。「当センターが1997年から地域住民を対象に実施してきた老化に関する疫学研究「NILS-LSA」(*1)の過去のデータを解析し、バイオマーカーとなり得るものを探してみたところ、いくつかサルコペニアと関連しそうな因子が見つかりました。中でもどうやら加齢に伴う筋力の低下と血中ビタミンDレベルに相関性がありそうだということが分かってきました」と細山さんは話す。

 細山さんらが、老化に関する長期縦断疫学研究「NILS-LSA」の第5次調査(2006~2008年)と第7次調査(2010~2012年)の両方に参加した40歳以上の1919人について、血中ビタミンD濃度が基準値(血中の25O(HD)量が20ng/mL)以上の群を充足群、基準値未満の群を欠乏群として4年間の筋力(握力)の変化を比較したところ、ビタミンD欠乏群では充足群に比べて筋力の有意な低下が見られ、また、欠乏群ではサルコペニアの新規発生も有意に多かったという。

*1 国立長寿医療研究センター・老化に関する長期縦断疫学研究(National Institute for Longevity Sciences - Longitudinal Study of Aging: NILS-LSA)。日本人の老化の過程を明らかにすること、老化・老年病の発症要因や予防策を見いだすことを目的に、国立長寿医療研究センターが1997年に始めた疫学研究。2012年に第7次調査を終えてからは、追跡調査が継続されている。
ビタミンDが欠乏状態の人では、加齢に伴う筋力の低下が著しい
ビタミンDが欠乏状態の人では、加齢に伴う筋力の低下が著しい
ビタミンD欠乏の人では、サルコペニアの発生が多い
ビタミンD欠乏の人では、サルコペニアの発生が多い
「NILS-LSA」の第5次調査(2006~2008年)と第7次調査(2010~2012年)の両方に参加した40歳以上の1919人について、血中ビタミンD濃度と筋力の指標としての握力、サルコペニアレベルなどを比較した。その結果、ビタミンD濃度の低い群では、そうでない群に比べて4年間で筋力(握力)の有意な低下が見られ、サルコペニアの新規発生も多かった。一方、顕著な筋量低下は見られなかった。なお、この調査では血清25(OH)Dが20ng/mL以下をビタミンD欠乏群、それ以上を充足群とした。(データ:J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2022 Dec;13(6):2961-2973.)