中高年以降の膝の痛みの原因で最も多いのは変形性膝関節症だ。かつては痛みをとる治療が中心で、いよいよ歩けなくなって手術をするケースも多かったが、手術に至る前に行う再生医療の技術を応用した新たな治療が次々と登場している。厚生労働省が認めた医療機関で受けられる「多血小板血漿(PRP)療法」や「自家脂肪由来幹細胞(ASC)療法」について、順天堂大学の齋田良知特任教授の話を聞いた。齋田特任教授は、これら最新治療の目的は痛みをとることだけにあるのではなく、しっかり歩ける「移動能」の維持だという。

膝関節の変形を食い止める新たな「注射療法」

画像はイメージ=PIXTA
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 人は、ヨチヨチ歩きを始めて以降ずっと、2本足で歩き続ける。交通機関の充実で歩かなくなった現在でも、健康のためにウォーキングなどに励む。歩いている間、膝の関節には負担がかかりっぱなしだ。そのため、国内では約1000万人の人が変形性膝関節症を発症。70代、80代になってロコモティブシンドローム(運動器症候群)や認知症のリスクを高める原因となる。

 変形性膝関節症の症状が進行して、体の負担の大きい手術療法に至らないようにするためにも症状に応じた適切な治療が必要だが、その新たな選択肢として広まりつつあるのが、前編でも紹介した「多血小板血漿(PRP)療法」だ。

 PRPとは、患者から採取した血液を遠心分離し、血小板の多い部分を抽出したもの。PRP療法は、それを膝に注射することで炎症を抑えるとともに、患者の体が本来持っている“修復力を高める治療”ともいえる治療法で、保険適用ではないが、厚生労働省の認可を受けた医療機関(医療機関のリストはこちらを参照)では誰でも受けることができる。

血液を採取してから30分 関節に注射すれば完了

 順天堂大学医学部附属順天堂医院(東京都文京区)整形外科・スポーツ診療科「PRP外来」の齋田良知特任教授は、「豊富な臨床研究によって有効性が認められてきており、手術に比べて入院が必要ないうえに体にメスを入れることもなく、その意味で患者の負担の少ない治療だ」と評価する(有効性については前編を参照)。

 治療は、まず患者の血液を22mL採取。それを院内に置かれている遠心分離機にかけ血小板が多く含まれた血漿(PRP)を抽出し関節内に注射する。順天堂医院の場合、採血してからかかる時間は30分ほどだ。自分の血液なのでアレルギー反応などの副作用も少ない。

新たな治療法「PRP療法」の流れ
新たな治療法「PRP療法」の流れ
図に示されているPRP-FDは、PRPの中の生理活性物質だけを取り出して凍結乾燥したもの。細胞を含まないため再生医療実施機関として厚生労働省の認可を受ける必要がないためPRP-FDだけを行う医療機関もあるが、有効性などに関する臨床研究はまだ少ない