免疫の一部でもあるオートファジー

「細胞内の掃除役」は細胞内を広範に掃除する機能もあるが、スナイパーのように特定の対象も狙い撃ちできる。「細胞の中でオートファジーが免疫の働きを担っていることがわかってきている」と吉森さん。

 従来、免疫が働くのは細胞の外の世界だと考えられていた。例えば、血液にいる細菌は免疫細胞が察知して殺していたが、当然、細菌は殺されないように逃げ回る。結果、細胞の中に逃げ込む細菌も出てくると免疫細胞は原則見つけることはできず、対応できないとされていた。それが、吉森さんの研究によって、逃げ込んだ細菌をオートファジーが退治していることが明らかになった。

 ウイルスの中でも、アデノウイルスやヘルペスウイルスはオートファジーによって狙い撃ちされるという。

 オートファジーと老化や病気との関係は、哺乳類のマウスでの実験によって因果関係は証明されているため、人間にも当てはまる可能性が高い。すでに人間でも相関関係は見られるため、今、世界中で、オートファジーの活性を上げて、病気を防ぐ薬の開発が進む。吉森さんも2020年にベンチャー企業を立ち上げ、薬の開発を急ぐ。 

運動、カロリー制限はオートファジーを活性化

 さて、「日常生活でオートファジーを活性化できないのか」とは誰もが考えるところ。最も手軽なのが運動だという。

 一方で、オートファジーを活性化させる食品成分の研究も進む。代表的な成分がスペルミジン。細胞の増殖に関わる物質であるポリアミンの一種で、豆類や発酵食品に多く含まれている。最も有名なのは納豆で、ほかにも味噌や醤油、チーズが有名だ。動物実験ではスペルミジンの摂取量が多いと、オートファジーが活性化し、心不全になりにくいとの報告もある。ほかにオートファジーを活性化させる成分としてレスベラトロールが知られている。これは、ブドウや赤ワインに含まれるポリフェノールの一種だ。

 また、食べる量も重要だ。「カロリー制限によって、動物では寿命が延びるが、それはオートファジーを介した作用だとわかっている。カロリー制限には、一日一食抜くといったプチ断食も含まれる。そういったプチ断食を時には行う、というのならばやりやすいかもしれない」と吉森さんは話す。

取材・文/栗下直也  図版/三弓素青

吉森 保
大阪大学大学院生命機能研究科教授、医学系研究科教授
吉森 保 生命科学者、専門は細胞生物学。医学博士。大阪大学理学部生物学科卒業後、同大学医学研究科中退、私大助手、ドイツ留学ののち、1996年オートファジー研究のパイオニアである大隅良典さん(2016年ノーベル生理学・医学賞受賞)が基礎生物学研究所でラボを立ち上げた時に助教授として参加。17年大阪大学栄誉教授。18年生命機能研究科長。新刊『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)長生きせざるをえない時代の生命科学講義』(日経BP)が好評。
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