新型コロナウイルスワクチンの一般高齢者への接種がスタートし、4月後半に政府は、9月末までに接種対象者全員分を確保できるとの見通しを示した。国民の大多数へのワクチン接種が済めば以前のような不自由のない生活が戻ってくるはず──そんな期待が広がる一方、変異ウイルスやワクチン接種後の後遺症が心配という人もいるだろう。そんな心配や不安を払拭するためにも、新型コロナウイルスのワクチンについての知識を深めておこう。

 ようやく一般人への接種が始まった新型コロナウイルスワクチン(以下、新型コロナワクチン)。政府は接種対象者全員分のワクチン確保への見通しを示したものの、国民全員が接種できるのはまだまだ先になりそうだ。

 順番を待つ間にも、毎日のように変異ウイルスの増加やワクチン接種後の後遺症などについての情報が更新され、本当にワクチンを打つことに意味があるのか…と考えてしまうことがあるかもしれない。医療関係者による新型コロナウイルスの情報サービス「こびナビ(CoV-Navi)」副代表で、米国で医療研究を進める医師の木下喬弘さんは、「今は何より、ワクチンで集団免疫をつけることが感染拡大を抑える近道」と話す。最先端のワクチン技術についても深い知識を持つ木下さんに、新型コロナウイルスのワクチンがこれまでのワクチンとどう違うのか、どれくらい効果が期待できるのかといった疑問に答えてもらった。

高齢者から順に新型コロナワクチンの接種が始まっている。(写真はイメージ)
高齢者から順に新型コロナワクチンの接種が始まっている。(写真はイメージ)

ウイルス感染で免疫を作る従来型ワクチン

 ワクチンとは、疑似感染により体内で抗体を作り、実際に病原体に接触したときの感染を防いだり、重症化しないようにするものだ。従来使われてきたのは、生ワクチン不活化ワクチン、組み替えたんぱくワクチンなどがある。

 「BCG(結核を予防するワクチンの通称)や、水ぼうそうのワクチンに代表されるのが生ワクチンです。病原性を抑えたウイルスを使用し、軽く感染することで免疫を反応させ、抗体を作らせるのですが、ワクチンによるこの軽い感染が重症化することはほぼありません」と木下さん。


■生きたウイルスを使う「生ワクチン」
■生きたウイルスを使う「生ワクチン」
ウイルスの病原性を抑えたものを使用する。軽く感染することで、免疫を活性化し、ウイルスに対する抗体を作らせる。作るのにウイルスの培養が必要。

 一方、バラバラに壊すなど増殖力をなくしたウイルスを使ったものを不活化ワクチンという。「体にウイルスが入ってきたと認識させ、免疫反応を促すものの、体内でウイルスが増殖することはありません。ただし、自然感染や生ワクチンに比べて免疫反応が弱いので、複数回接種する必要があります」。


■死滅させたウイルスを使う「不活化ワクチン」
■死滅させたウイルスを使う「不活化ワクチン」
ウイルスを死滅させたり、バラバラに分解するなどして病原性を消失させたもの。 作るのにウイルスの培養が必要。基本的に複数回接種で、対象とする病気によって接種回数は異なる。

開発スピードと有効性を高めた革新的ワクチン技術

 「今回、新型コロナウイルスのワクチンには、生ワクチンとも不活化ワクチンとも異なるこれまでにない新しいワクチンが使用されています。ウイルスそのものではなく、ウイルスの遺伝情報のみを使用したもので、mRNA(メッセンジャーアールエヌエー)ワクチンや、ウイルスベクターワクチンがこれに当たります」(木下さん)

 mRNAワクチンは、ウイルスの中にある遺伝情報のうち、免疫細胞のターゲットとなる部位のmRNAを使ったもの。日本国内で接種が始まったファイザー/ビオンテック社開発のワクチンと、今後日本にも入ってくる予定のモデルナ社のワクチンがこのmRNAワクチンだ。


■ウイルスの遺伝情報だけで作る「mRNAワクチン」
■ウイルスの遺伝情報だけで作る「mRNAワクチン」
ウイルスの遺伝情報のうち、抗体のターゲットとなる抗原たんぱく質のmRNAだけを使ったワクチン。新型コロナワクチンの場合はスパイクたんぱくのmRNAを使用している。mRNAは壊れやすいため、脂質ナノ粒子でできた膜に包むことでワクチン化に成功した。mRNAを人工的に作ることができるため、ウイルス培養の必要がない。