今年に入り、肥満治療の選択肢が増えてきた──。長い間、減量のための治療は「食事・運動・行動療法」が中心だったが、近年、安全に行える外科療法が確立しているほか、2023年になってから30年ぶりの新薬が相次いで承認されたのだ。新たな薬はどのようなものなのか。どのような人に向くのか。前編に引き続き、千葉大学医学部附属病院の横手幸太郎病院長に話を聞いた。
>前編:「肥満」と「肥満症」は異なる 効果的な減量のコツは?

肥満症新薬が30年ぶりに登場、外科療法も進歩
日本肥満学会では、人の体格をBMI(body mass index)で表したとき、BMI18.5未満を「低体重」、BMI18.5以上25未満を「普通体重」、BMI25以上35未満を「肥満」、BMI35以上を「高度肥満」としている。
「肥満」「高度肥満」の人のうち、肥満に起因ないし関連する11の健康障害(前編参照)が一つでもあるか、一定以上の内臓脂肪蓄積が認められれば「肥満症」または「高度肥満症」とされる。その場合、体重を減らす治療を積極的に行うことで健康障害を改善することが期待される。
「肥満症」治療の基本となるのは「食事・運動・行動療法」だが、それで体重のコントロールができない場合は、肥満の原因にもなるメンタルヘルスへのサポートを行いながら「薬物療法」「外科療法」も検討される。しかし、長きにわたり、肥満症の実際の治療には大きな課題があった。「食事・運動・行動療法」「薬物療法」「外科療法」という治療の3本柱はあっても、長い間、医師が頼りにできたのは食事・運動・行動療法だけであったということだ。

薬物療法については、糖尿病を合併している場合、体重減少効果のある糖尿病治療薬を使うことはできた。だが、糖尿病を合併していない場合、使用できる薬は30年前の1992年に承認されたマジンドール(一般名)という食欲抑制薬のみ、それも、適応となるのは高度肥満症の患者だけだったのだ。
日本肥満学会の理事長でもある千葉大学医学部附属病院の横手幸太郎病院長は、高度肥満症の患者を対象にかつて行われていたこの薬物療法と外科療法について、次のように説明する。「マジンドールは3カ月しか使えないという問題もありました。外科療法では、胃を小さく形成することで食事量を制限するスリーブ状胃切除術が30年前から行われていましたが、高度肥満患者は脂肪が多いため開腹手術による合併症も多く、安全に治療を行えなかったという事情もあります」
しかし、外科療法については、2014年に腹腔鏡を使った手術が保険適用になり、安全性が飛躍的に進歩した。そして薬物療法については、2023年になって、セマグルチド(商品名「ウゴービ皮下注」)が肥満症治療薬として承認された。さらに、薬局で薬剤師の指導のもとに購入できるオルリスタット(商品名「アライ」)が、肥満症の予防薬という位置づけで承認されたのだ(共に4月27日時点で発売準備中)。
患者に合わせて予防から治療まで、肥満症による健康障害を防ぐための武器がようやくそろったといえるだろう。