どんな食事が病気の予防になるの? また、どんな習慣がアンチエイジングにつながるの? 世界中で進む、“健康”にまつわる研究について、注目の最新結果をご紹介します。今回は、最近研究が進む「食事炎症指数(DII)」にまつわる2つの研究をご紹介します。

体内の炎症が起こりやすい食事は、睡眠の質を下げる?

 食生活と健康の関係から最近注目されているのが、食事炎症指数(Dietary Inflammatory Index:DII)。食事による体内の炎症の程度を表す指標で、糖尿病やがん、心臓病などに関連することが報告されている。さらにDIIは睡眠の質にも関連することが米国の3年間の追跡研究で明らかになった。

炎症性のスコアは、45種類の食品や栄養素で決められている
炎症性のスコアは、45種類の食品や栄養素で決められている

 研究は、健康な成人の体重と組成の変化を調べた前向きコホート研究のデータを用いて行われた。解析対象は21~35歳の427人(男女の割合はほぼ同じ)。食事と睡眠の調査を開始時と、最初の2年間は3カ月ごとに、その後1年間は6カ月に1回行った。解析には調査開始時と1年、2年、3年時点のデータが用いられた。

 食事調査はランダムに3日間(平日2日、週末1日)行われ、栄養士が予告せずに電話をかけて過去24時間の食事を思い出してもらった。DIIは、体内の炎症状態が食事によってどう影響するかを調べた2000件近くの研究結果から、45種類の食品や栄養素にスコアが決められている。

 抗炎症性に分類されるのが、ビタミンB12以外のビタミン類、オレイン酸などの一価不飽和脂肪酸(MUFA)、オメガ3脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸(PUFA)。炎症性に分類されるのがコレステロールやたんぱく質、炭水化物、飽和脂肪酸などだ。つまり、DIIが低い(抗炎症性)食事には野菜や果物、全粒穀物、ナッツ類、脂肪が多い魚(サーモン、サバ、イワシなど)、オリーブオイルなどが、DIIが高い(炎症性)食事には精製穀物、揚げ物、赤身肉や加工肉などが含まれる。

 この研究では食事調査をもとに合計のDIIスコアを算出し、-3未満は「非常に抗炎症性」、-3以上-1未満は「中程度の抗炎症性」、-1以上1未満は「中間」、1以上は「炎症性」の食事とした。睡眠の質の評価には、活動量や皮膚表面の温度などが測れるアームバンド型の計測器(BodyMedia SenseWear)が用いられた。

 DIIスコアのカテゴリーごとに男女差を見たところ、「炎症性」の食事は女性の割合が高く58%、反対に「非常に抗炎症性」は男性が61%を占めた。また抗炎症性の食事をしている人は、身体活動時間が長く、座っている時間は短く、生活のストレス度が低かった。

 睡眠との関連性を見ると、炎症性の食事をしている人は、就寝時刻と起床時刻が遅かった。またDIIスコアが1増えて、より炎症性になるにつれて、入眠後覚醒が増加し、睡眠効率が低下することも示された。これらの傾向は横断的な結果でも縦断的な結果でも同じだった。

 食事と睡眠が関連するメカニズムは明らかでないが、炎症を起こしやすい食事にすると体内時計の概日リズムが悪化するという報告や、野菜や豆類が豊富な地中海式食事をしていない人ほど社会的な時差ぼけ(social jetlag)が多いという報告もある。社会的な時差ぼけとは、体内時計と勤務時間などによる社会的な時間とのずれのこと。研究者らは食事の質の低下で睡眠の質が悪化し、それが健康にどう影響するかを今後研究する必要があるとまとめている。

データ:Nutrients. 2023;15(2):419. (参考:DIIについてPublic Health Nutr. 2014; 17(8): 1689-1696.)