ペットから得られる安らぎや、共に過ごす時間はかけがえのないもの。でも、一緒に暮らすからこそ、お互いの健康のために気をつけたい病気や、接し方のポイントがあります。今回はひっかき傷や咬み傷、皮脂や唾液からのアレルギーのリスクについて見ていきましょう。

>前編:ペットを「家族」と思うほど油断 うつる病気を防ぐには

イヌ、ネコの口内にはたくさんの菌がいる 咬まれたらすぐ病院へ
<猫ひっかき病/パスツレラ症など>

咬み傷、ひっかき傷が腫れて発熱も
咬み傷、ひっかき傷が腫れて発熱も
イヌやネコの口の中には病原菌がいっぱい。動物には悪さをしなくても、ヒトの体に入ると様々な症状を引き起こす。

 ヒトの口腔内に様々な常在菌がいるのと同じように、動物の口の中にも多くの細菌がいる。「通常それらの細菌で宿主の動物が病気になることはないが、ヒトが咬まれたりひっかかれたりすると病気の原因になる」(北海道大学の苅和宏明教授)。

 なかでもよく見られるのが「パスツレラ症」と「猫ひっかき病」。パスツレラ菌はイヌの約75%、ネコのほとんど、ウサギが口腔内常在菌として持っていて、ペットが体をなめると爪や体毛にも付着する。「動物から飛んだ唾液が気道に入り感染することもある。傷からこの菌が入ると、患部が腫れ、皮下組織に炎症が広がる蜂窩織炎(ほうかしきえん)を起こして敗血症で死亡した例もある。特に糖尿病などの基礎疾患がある人は重症化しやすいので要注意」と苅和教授は指摘する。

 猫ひっかき病は、ネコがネコノミに刺されて原因菌を保有する。「感染したネコはグルーミングで歯や爪に菌をつけ、ヒトが受傷すると感染し、わきの下や鼠径(そけい)部などのリンパ節が腫れ、痛みや発熱が続く」と苅和教授。

パスツレラ症では受傷後30分~2日で患部に激痛、発赤、腫れを起こす。
パスツレラ症では受傷後30分~2日で患部に激痛、発赤、腫れを起こす。
猫ひっかき病では、受傷後1~2週間後に、傷を負った側のリンパ節が腫れて痛み、発熱することも。
猫ひっかき病では、受傷後1~2週間後に、傷を負った側のリンパ節が腫れて痛み、発熱することも。

 これらの病気を防ぐには、スプーンなどの食器を共有したり、同じベッドで寝るなど濃厚な接触を避けるようにする。寝ている間になめられる可能性もあるからだ。嫌がるペットを抱き上げるといった行為は避け、動物に触れた後には手を洗うこと。また、ネコを外に出さないようにする、ノミ駆虫薬を使ってノミに感染させないようにし、万が一咬まれたりひっかかれたりした場合は、すぐに受診すること。

パスツレラ症/猫ひっかき病の基本情報

 なお、動物に咬まれて発症する病気の中で最も危険なのが狂犬病だ。発症すれば、致死率は100%。2020年には、フィリピンでイヌに咬まれた男性が来日後発症して死亡した。幸いにも、日本ではイヌへの狂犬病ワクチン接種が義務づけられ、1957年以降国内での発生はない。こうした状況の中で、危機感の低下から、飼いイヌの狂犬病ワクチン接種を怠る人もいるようだ。

 しかし海外に目を向ければ、狂犬病が撲滅された国はオーストラリアなどごく一部。中国や米国、欧州諸国など150カ国以上では発生している。海外から、なんらかの形で感染動物が日本に持ち込まれないとも限らない。自分のイヌや自分の命を守るためにも、毎年の狂犬病ワクチンを必ず受けさせたい。