高齢になって寝たきりになる主な原因は、脳卒中や認知症、転倒による骨折などがあるが、そのうち「骨折」の背景には骨の病気である「骨粗しょう症」がある。骨粗しょう症は女性の病気と思われがちだが、男性の患者が増えていることも明らかになってきた。男女ともに大切なことは、自分の骨の衰え(骨密度の低下)を早く知り、対策をとることだ。幸い、骨粗しょう症の薬物治療の進歩は著しく、治療の選択肢も増えた。生活改善など自分でできることをやっても病気が進行した場合は、画期的な新薬にバトンタッチもできる。鳥取大学医学部保健学科教授で日本骨粗鬆症学会の副理事長を務める萩野浩氏に、骨粗しょう症治療の最前線を伺った。

高齢者の死亡の原因となる骨折「骨卒中」には男性も要注意
骨粗しょう(鬆)症とは、その名の通り、骨がスカスカ(粗鬆:大雑把で粗末なさま)になる病気だ。健康な骨は、常に骨吸収(骨を壊す働き)と骨形成(骨をつくる働き)がうまくバランスをとることで維持されている(骨のリモデリング:骨改変)。それが加齢や女性の閉経などにより骨吸収が骨形成を上回ると、骨密度が低下し骨がもろくなっていく。

骨粗しょう症と言うと、更年期以降の女性の病気というイメージを持っている人が多く、女性のほうがリスクが高いのは確かだが、男性でも80歳以上なら女性の3分の1ぐらいの頻度で発症する。「まだまだ先じゃないか」と思う人も多いと思うが、80歳以上で骨折すれば、それきり寝たきりになってしまう場合もある。「特に男性の場合、高齢で骨折すると、女性と比較してその後の死亡率が高い傾向がある」と鳥取大学医学部保健学科の萩野浩教授は指摘する。
759人の股関節骨折(大腿骨近位部骨折)の患者(平均年齢80歳)の生命予後(病気の経過が命に与える影響)についての臨床研究(*1)では、骨折後120日以内に亡くなった男性は女性の3.53倍に達した。これまで男性は骨粗しょう症に対する関心が低かったが、これからは男性も骨粗しょう症対策を自分ごととして取り組みたい。萩野教授も、高齢者に生じる大腿骨近位部骨折や脊椎骨折を、それと同じようにある日突然起きて命を脅かす「脳卒中」になぞらえて「骨卒中(こつそっちゅう)」と呼び、注意喚起に取り組んでいる。