コロナ禍で自宅での飲酒量が増え、「5リットルの業務用ウイスキー」を買ってしまったこともある酒ジャーナリストの葉石かおりさん。そんな状態から飲酒量を見直し、酒との付き合い方を変えるのに役立ったのは、これまでに「酒と健康」をテーマに取材した専門家たちの言葉でした。そんな取材の成果をまとめたのが、最新刊『名医が教える飲酒の科学』。今回は飲酒と人の免疫の関係についてご紹介! アルコールは、さまざまな免疫機能に悪影響を及ぼすことが分かっています。

酒はやはり免疫に悪影響を及ぼす
テレビをつけていたら、こんな会話が聞こえてきた。
「お酒飲むと『免疫力』が下がりますからね」
「そうそう、だからコロナ禍では飲まないほうがいいんですよ」
昔から「アルコールは免疫力を下げる」という話はよく耳にしていたが、コロナ禍だからこそ、話題になっているようだ。
とはいえ、「これって事実なのだろうか?」と疑っていた。私事で恐縮だが、これだけ日々酒を飲んでいるにもかかわらず、ここ数年、風邪らしいものをひいたことがないし、50歳過ぎても大病、入院などは皆無。数値などで測定したわけではないが、免疫力は高いつもりでいる。そんなこともあって、「アルコールは免疫力を下げる」という説を今ひとつ信じたくなかった。
だがしかし、新型コロナウイルス感染症に関連して、酒を多く飲む人ほど肺炎にかかるリスクが高いという研究があると聞いた。飲酒量が増えると免疫に問題が起き、肺炎にかかりやすくなるというわけだ。
これが真実なのだとしたら、どのような仕組みでアルコールが免疫に悪影響を及ぼすのだろうか。免疫の仕組みを知らないまま、酒を飲み続けるのもちょっと怖い。
そこで、帝京大学先端総合研究機構の特任教授で、免疫学を専門とする安部良さんに話を聞いた。先生、アルコールは免疫に悪影響を及ぼすのでしょうか?
「はい。アルコールはヒトの免疫に対してさまざまな影響を与えます。ひとつ例を挙げると、ウォッカのようにのどがチリチリするようなアルコール度数の高いお酒は、のどの粘膜を傷つける恐れがあり、粘膜に傷がつくと免疫力は低下します」(安部さん)
なんと……。酒好きの中にはウイスキーやウォッカがもたらす、あのチリチリとした刺激がたまらないという方も少なくない。そのチリチリが粘膜を傷つけ、免疫にも問題を与えているとは知らなかった。
そして、のどの粘膜も免疫に関わっているとは。免疫とはよく聞く言葉だが、そもそもどのような仕組みなのかよく知らない。改めて免疫について基本的なことから教えてくれませんか。
「免疫の『疫』は病気のことを指します。疫から免れる、つまり免疫とは文字通り、病原体から体を守る防御システムということです」(安部さん)