近年、海洋汚染源としてその問題が注目されているマイクロプラスチック。大気中にも検出され、さらに肺や痰からも発見されています。前回に引き続き、大気中のマイクロプラスチック研究の第一人者、大河内博教授に詳しく聞きました。大気マイクロプラ問題について私たちができることとは?
・大気中に浮遊する「マイクロプラスチック」の問題点とは【1】
・肺や痰にも「マイクロプラスチック」 健康への影響は?【2】←今回はココ
大気中のマイクロプラスチックが肺や痰からも発見、問題は?
環境汚染の研究を行う早稲田大学創造理工学部の大河内博教授は、新宿の空気中に実際にペット、ポリプロピレンやポリスチレンなどのマイクロプラを検出している。目に見えないほど小さく軽い大気中のマイクロプラは「食べ物、飲み物、空気という3つの経路から体内に入るが、健康リスクとして懸念されているのが吸気からの暴露」と大河内教授。
ブラジルで行われた剖検では、20検体のうち13検体の肺組織から粒子状のポリプロピレンやポリエチレンが見つかり、粒子サイズは5.5μm未満だったという[1]。中国では呼吸器疾患患者の痰から20〜550μmのマイクロプラが合計21種類検出された[2]。「ある程度大きいマイクロプラならうがいや鼻洗いで除去できるが、それ以下の粒子は肺にまで入り込むということを示唆した重要な知見と捉えている」と大河内教授。
大気中マイクロプラは屋外だけでなく室内にも存在する。室内空気からの吸入量をマネキンを用いて実験した研究では、1m3あたり2個から6個、合成繊維の洋服に多いポリエステルが多かったという[3]。
大河内教授は「健康への影響に関する研究は始まったばかり」としながらも、「繊維状のマイクロプラが肺でアスベスト(石綿)と同じように損傷をもたらす可能性も考えられる。また、プラには素材の性能を高めるための添加剤が含まれている。大気中で有害な有機物や重金属が付着し濃縮されている可能性も。マイクロプラは有害物質の運び屋となる可能性がある」と指摘する。
さらに微細なナノサイズ(1mmの1万分の1未満)になると、細胞膜を通過し、肺から全身に回る可能性も。「健康影響が明らかになる前にリスクを予測したい」と大河内教授は言う。
4μm以下のマイクロプラは肺胞まで到達する
[1]J Hazard Mater. 2021 Aug 15;416:126124.
[2]Environ Sci Technol. 2022 Feb 15;56(4):2476-2486.
[3]Sci Rep. 2019 Jun 17;9(1):8670.