どんな食事が病気の予防になるの? また、どんな習慣がアンチエイジングにつながるの? 世界中で進む、“健康”にまつわる研究について、注目の最新結果をご紹介します。

 ぐっすり眠れなかったり、睡眠不足だったりすると、てきめんにパフォーマンスが下がることを実感する人も多いだろう。今回は、睡眠にまつわる2つの最新研究を紹介しよう。

就寝前の音楽は良くない?メロディーが耳に残って睡眠の質を下げる

 音楽を聴いた後で、そのメロディーや歌が耳に残って、頭の中で何度も繰り返されることがある。これはイヤーワーム(earworm)と呼ばれる。寝る前に音楽を聴いていると、寝ている間も脳が音楽を処理し、睡眠の質を下げることが米国の研究で示された。

寝る前の音楽は、リラックスできて、睡眠に最適のように思えるが…
寝る前の音楽は、リラックスできて、睡眠に最適のように思えるが…

 研究では3つの実験を行った。1つめの実験では、199人(平均年齢35.9歳)を対象に、音楽を聴く頻度や睡眠の質、イヤーワームの有無をアンケート調査した。

 その結果、77%(153人)がイヤーワームを経験しており、このうち入眠時や夜間の覚醒時、朝の覚醒時といった睡眠の前後でイヤーワームを経験した人は33%(66人)だった(睡眠関連群)。

 睡眠の前後で経験するイヤーワームの頻度を「全くない」から「毎日」の7段階で回答してもらったところ、音楽を聴く習慣がある人ほど、睡眠前後のイヤーワームの頻度が高いことがわかった。また睡眠前後のイヤーワームの頻度が高いほど、睡眠の質は悪化し、日中の眠気も悪化、不眠症にもなりやすいことが示された。特に、睡眠の質を評価する指標(PSQI)のスコアが、睡眠関連群はイヤーワームを経験しない人(対照群)に比べて、54%悪かった。寝つきの悪さも睡眠関連群ではより悪かったが、睡眠時間に大きな違いはなかった。

 2つめの実験で、50人(平均年齢21.2歳)が、実験室で寝る前に人気のある曲の歌詞付きバージョンと楽器のみのバージョンのどちらかを聴いた。Journeyの「Don't Stop Believin'」、Carly Rae Jepsenの「Call Me Maybe」、Taylor Swiftの「Shake It Off」が使われた。これらの曲はイヤーワームを誘発することで知られているという。また脳波や眼球の動きなどで睡眠の状態を調べる睡眠ポリグラフ検査も行った。

 その結果、音楽を聴く前に比べて音楽を聴いた後は、血圧は有意に低下し、自己申告のストレスが減少、緊張が減って、リラックス感が増加した。ところが、楽器のみの音楽(インストルメンタル)のほうが、睡眠前後のイヤーワームの発生率は高く、睡眠ポリグラフ検査でも睡眠の質が下がることが確認された。

 その理由として、歌詞付きの音楽に親しんでいるため、歌詞をつけようとして、イヤーワームを誘発する可能性があると研究者らは述べている。

 3つめの実験では、脳波検査により、睡眠中の記憶定着の指標とされる前頭葉の低速振動(0.5~1ヘルツ)が睡眠関連群では増加していた。このため、睡眠中でも脳は音楽を処理し続け、記憶定着のプロセスによって、イヤーワームが誘発され、夜間の睡眠を妨げる可能性があるとしている。音楽を聴くとリラックスした気分になるが、「就寝前の習慣として、音楽を聴くことを推奨するのは再評価されるべきである」と研究者らは述べている。

データ:Psychol Sci. (2021) 32(7):985-997.