ズキン、ズキンと脈打つような頭痛発作を繰り返す片頭痛。日常生活に大きな支障をきたしている人は少なくないが、2000年代に入って急性期治療薬であるトリプタンが登場、さらに最近も注目の新しい急性期治療薬や予防薬が登場し、治療は大きく変わろうとしている。新薬は従来の薬とはどう違うのか。自分に合う治療法を見つけるにはどうすればいいのか。新薬による治療のポイントと、自分にぴったりのオーダーメイドの治療を見つけるコツについて紹介する。
片頭痛の影響は仕事や人間関係にまで及ぶ

片頭痛の発作は、ズキンズキンあるいはドクドクと脈打つように頭が痛み、吐き気や嘔吐を伴うことも多い。普段ではなんとも感じない、光、音、においなどをつらく感じることもある。日本人全体では10人に1人、中でも30代女性では5人に1人に見られる患者数の多い病気だ。
片頭痛は患者の生活の広範囲に影響をもたらす。お金に換算できる影響としては、病院での治療費、通院のための交通費などの負担だけでなく、頭痛発作で仕事の能率が落ちるなどの影響も大きいと専門家は分析している。さらに「好きだった趣味が楽しめなくなった」「家族や友人と楽しく過ごす時間が減った」といったお金に代えがたい損失も無視できない。
バージョンアップした治療で生活を変える
なぜ片頭痛が起こるのか。かつては神経に原因がある「神経説」、なんらかの原因で頭の血管が拡張するという「血管説」などがあったが、研究が進んだことで「三叉神経血管説」が有力になった(詳しくは前編参照)。これは、末梢神経の一つである三叉神経が、脳の中枢にあって自律神経やホルモン分泌を司る視床下部で生まれた刺激によって活性化。三叉神経の末端からCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)が過剰に放出されることで起こる神経の炎症や血管拡張が、激しい痛みを起こすという説だ。
2001年以降、わが国ではこの発症メカニズムに関連した治療薬として3タイプの薬が登場した。痛いときに使う急性期治療薬として「トリプタン製剤」と今年6月に発売された「ラスミジタン(レイボー錠)」。そして、発作頻度と症状を軽減する予防薬として2021年に発売された「CGRP抗体薬」だ(新薬の詳細は前編参照)。こうした新薬によって片頭痛の治療は大きく変わったが、富士通クリニックの五十嵐久佳医師は、「片頭痛は患者ごとに症状の出方が異なる病気。治療効果を最大限引き出し、患者の生活を大きく改善するためには、患者さん自身が治療に“参加”することが重要です」と指摘する。
つまり、自分の症状がどんなときに悪化・改善するのかを記録するなどして自身の状態を再発見し、専門医と二人三脚で自分に合った治療を探すという姿勢が大切ということだ。それによって自分に合う薬を見つけるだけでなく自分の生活のバージョンアップも目指したい。そのためにはまず、どんな場合にどんな薬が向くかといったことに関する基本知識を持つ必要がある。
2001年以降に登場した片頭痛の薬
- <急性期治療薬:トリプタン製剤>※括弧内は商品名(以下同)
- スマトリプタン(イミグランほか)
- ゾルミトリプタン(ゾーミッグほか)
- リザトリプタン(マクサルトほか)
- エレトリプタン(レルパックスほか)
- ナラトリプタン(アマージほか)
- <予防薬:抗CGRP抗体>
- ガルカネズマブ(エムガルティ)
- フレマネズマブ(アジョビ)
- エレヌマブ(アイモビーグ)
- <今年6月に発売になった急性期治療薬:ジタン系片頭痛治療薬>
- ラスミジタン(レイボー)