「約16万人を平均14年間かけて調査した結果、2208人の方が乳がんに罹患していました。2208人のうち閉経前の方が235人、1934人が閉経後です。分析でまず明らかになったのは、閉経前の女性においては、飲酒頻度が高くなるほど乳がんの罹患率が上がるということです。そのリスクは、まったく飲まない人に比べ、週5日以上飲む人で1.37倍でした。また飲酒量についても、1日に23g以上飲む人の罹患リスクは、まったく飲まない人に比べ1.74倍と高い数字が出ました」(松尾さん)

 このように、閉経前の日本人女性においては、飲酒頻度が高くなるほど、また飲酒量が多くなるほど、乳がんの罹患リスクが上がることが明らかになった。それでは、閉経後はどうだろう。

 「一方、閉経後における乳がんと飲酒の関係を同じ条件で見てみると、週5日以上飲む人で1.11倍、1日に23g以上飲む人で1.18倍と目立った上昇がなく、統計的に有意な関係は認められませんでした」(松尾さん)

なぜアルコールが乳がんリスクを上げる?

閉経前の女性の場合、毎日1合の日本酒を飲むだけで、乳がんのリスクが上がるという(写真はイメージ=123RF)
閉経前の女性の場合、毎日1合の日本酒を飲むだけで、乳がんのリスクが上がるという(写真はイメージ=123RF)

 純アルコール換算で23gといえば、日本酒だとほぼ1合……。酒豪であれば「食前酒」レベルともいえる量である。この量でも、毎日飲んでいれば、乳がんリスクが1.74倍になるのだ(閉経前の場合)。

 休肝日は週2日程度で十分と(勝手に)思っていたが、「もう少し休肝日を増やしたほうがいいのかな」……と不安になってきた。

 さて、ここで気になるのは、そもそもなぜ飲酒が乳がんのリスクを上げるのか、ということだ。

 「飲酒によって主な女性ホルモンであるエストロゲンの量が増えることが分かっています。乳がんとエストロゲンは密接な関係にあり、エストロゲンにさらされる期間が長ければ長いほど、そしてエストロゲンの量が多ければ多いほど、乳がんの罹患率が上がるといわれています。エストロゲンが乳がん細胞の中にあるエストロゲン受容体と結びつき、がん細胞の増殖を促すからです」(松尾さん)

 飲酒でエストロゲンの量が増える仕組みについては、はっきりとしたことは分かっていない。ただ、エストロゲンを合成するアロマターゼという酵素がアルコールにより活性化されることが知られており、飲酒によりアロマターゼが活性化されることでエストロゲンの産生量が増えると考えられるという。

 まさかエストロゲンが飲酒で増えるとは驚いた。「エストロゲンが増える」という部分だけを切り取ると、美肌や美髪など美容面ではメリットがあると思ってしまうが、乳がんのことを考えると素直に喜ぶことができない。

 また松尾さんによると、日本で乳がんの罹患率が昔に比べて上がっているのは「初経年齢が下がったことと、女性の社会進出に伴い子どもを持たない方が増えているという社会的背景も関係している」という。

 初経年齢が下がれば、それだけエストロゲンにさらされる期間が長くなる。また、出産後はしばらくエストロゲンの分泌が抑えられるので、出産の回数が多いほど乳がんのリスクは下がるという。