脳梗塞は突然起こり、多くの人の命を奪ったり深刻な後遺症を残したりする。その重要な原因の一つが「心房細動」という不整脈であるが、発作的に起こることもあり、病院や健康診断での検査だけでタイミングよく発見することは難しかった。しかし、今年になってアップルウォッチの家庭用心拍数モニタプログラム(以下、心拍数モニター アプリ)、家庭用心電計プログラム(以下、心電図アプリ)が日本でも医療機器として利用可能になり、心房細動をキャッチしやすくなった。心房細動を発見することの重要性や、心拍数モニター/心電図アプリを心房細動の発見にうまくつなげるコツについて、慶應義塾大学医学部内科学教室循環器内科の木村雄弘専任講師に聞いた。
脳梗塞のリスクを高める心房細動をアプリで早期に発見
健康だった人の脳の血管に突然、血の塊(血栓)が詰まり、命を奪ったり、様々な後遺症につながったりする病気。それが脳梗塞だ。厚生労働省が発表している「人口動態統計の概況」によると、2017年の死因の第3位は脳血管疾患(10万9880人)で、そのうち半数以上を占めるのが脳梗塞(6万2122人)だった。長嶋茂雄さんや西城秀樹さん、最近では爆笑問題の田中裕二さんなど、有名人で脳梗塞になった人も少なくなく、年齢・性別を問わず、誰もが漠然とした不安を抱いている病気の一つだろう。
脳梗塞のリスクを減らすにはどうしたらいいのか。慶應義塾大学医学部内科学教室循環器内科の木村雄弘専任講師は「不整脈の一つである心房細動は、脳梗塞のリスクを5倍にするともいわれており、取り返しのつかない脳梗塞を起こしてしまう前に見つけることが重要です」と解説する。
不整脈には、直接致命的になる「怖い不整脈」と、そうでないものがある。心房細動は、不整脈自体は命に関わらないが、それが引き起こす脳梗塞が致命的となり得る「怖い不整脈」の一つだ。いつ起こるか分からず、動悸(どうき)などの症状がない人も多い。これを未病のうちに早期発見することは、循環器専門医の間でも大きな課題だったが、2017年に米スタンフォード大学の研究で、アップルウォッチの心拍センサーを用いた不規則な心拍の通知が心房細動の早期発見につながることが実証された。それが、非医療機器であるヘルスケアデバイスが収集するデータを、医療機器である心拍数モニター /心電図アプリが医療へ橋渡しする動きにつながった。
日本国内では、2020年9月に医薬品医療機器総合機構がアップルウォッチのシリーズ3以降で利用可能な「家庭用心拍数モニタプログラム」(以下、心拍数モニター アプリ ※アップルウォッチ上で「不規則な心拍の通知」と表示される機能)と、シリーズ4以降で利用可能な「家庭用心電計プログラム」(以下、心電図アプリ)を医療機器として承認。今年1月から国内でアプリがダウンロード可能になった。

心臓が原因で起こる脳梗塞は、若者も無縁ではない
心臓は心房と心室が交互に収縮することで血液をスムーズに送り出すことができる。心臓の収縮は洞結節と呼ばれる部分から発せられる電気信号で調節されているが、心房細動の患者では別の場所から乱れた電気信号が生じ、その結果、心房がぷるぷると小刻みに収縮するようになる。それが直接命に関わることは少ないが、血液の流れに「淀み」ができて血液の塊(血栓)ができ、血栓が脳の血管に詰まってしまうことがある。これが脳梗塞だ。

木村専任講師は「脳梗塞は高齢者の病気というイメージが強いと思います。確かに、動脈硬化が原因の脳梗塞の場合はそうなのですが、心臓が原因で起こる脳梗塞は、若年者にも起こります。また、血栓が脳の太い血管を詰まらせてしまうため、脳梗塞のサイズが大きく、命に関わったり手足の麻痺を残したりなど、重篤な後遺症を残すことが多いのが特徴です。また、再発しやすいのも特徴で、動脈硬化が原因で起こる脳梗塞と比較して注意が必要です」と警鐘を鳴らす。