“体によくない油”として、広く知られている「トランス脂肪酸」。最近では話題に上ることも少なくなったが、そもそもトランス脂肪酸とは何か、なぜ体によくないのか、話題に上らなくなった理由は? ──これらを正しく説明できる人は多くないのではないだろうか。今回はトランス脂肪酸の「なぜ」について、最新情報に基づき紹介していく。

 悪玉のLDLコレステロールを増やし、動脈硬化や心筋梗塞のリスクを高める悪名高き油といえばトランス脂肪酸だろう。WHO(世界保健機関)が摂取目標量などの指針を示し、各国で食品への添加が規制されたことで、2018年ごろから国内でもトランス脂肪酸低減食品が続々と登場した。

 一方、トランス脂肪酸がどのように動脈硬化を引き起こすのかは、長年解明されていなかったが、ようやくその一部が明らかになってきた。専門家に詳しく聞いていこう。

<トランス脂肪酸の健康への影響>
炎症を拡大することで動脈硬化や認知症を加速する

 「トランス脂肪酸は単体では無害だが、細胞がダメージを受けけたときに過剰な炎症を起こす“悪玉ブースター”だということがわかってきた」というのは、トランス脂肪酸の毒性に詳しい東北大学大学院薬学研究科の松沢厚教授。

 人や動物の細胞は、常に活性酸素や紫外線からダメージを受けていて、絶えず修復や細胞の代謝が行われている。修復できない損傷を受けると、細胞は、外部からの影響に関係なく自壊するアポトーシス(プログラム細胞死)を迎えるが、「このとき、死んだ細胞の掃除や組織を修復する免疫反応(炎症)を促進するためにまわりの細胞でも適度にアポトーシスが起き、炎症誘導物質が放出される。ところが、トランス脂肪酸があるとアポトーシスが過剰に起こって炎症が拡大してしまう」と松沢教授。それが血管内皮で起こると動脈硬化が、心臓で起こると心筋梗塞が起こるというわけだ。

 「新型コロナウイルスの重症化につながる免疫の暴走、『サイトカインストーム』にもトランス脂肪酸が関与している可能性がある」と松沢教授は語る。

トランス脂肪酸の健康リスク
トランス脂肪酸の健康リスク
悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化や心疾患の発症リスクを高めるほか、インスリン抵抗性を高めて糖代謝を悪化させたり、血圧を上昇させる可能性も指摘されている。摂取量が多いほど認知症リスクが高いという報告も(下グラフ)。
血中トランス脂肪酸量が多い人は認知症の発症リスクが高い
血中トランス脂肪酸量が多い人は認知症の発症リスクが高い
福岡県糟屋郡久山町在住の認知症のない高齢者約1600人を10年間前向きに追跡した調査。血中トランス脂肪酸濃度を4段階(Q1~4)に分け、それぞれの認知症の発症リスクを調べた。その結果、血中トランス脂肪酸濃度の上昇に伴い、認知症全般および、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高まることが確認された。(データ:Neurology. 2019 Nov 26;93(22):e2053-e2064)