高血圧は、日本人の死因の上位を占める心疾患(心筋梗塞、心不全など)や脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)の最大のリスク要因。健康長寿を実現したいなら、生活習慣の改善による血圧コントロールが重要だ。しかし、長年続けた生活習慣を変えるだけのモチベーションを持ち続けられないという人も多い。そんな人にとって強い味方になりそうなのが、2022年9月に登場した高血圧治療用アプリだ。患者は医師によって処方されたアプリを使った6カ月間の指導プログラムを受けることで無理なく意識や行動を変え「血圧コントロールの達人」になれる可能性がある。気になるアプリの詳細を解説する。

高血圧治療の「根っこ」にある生活改善、その侮れない影響力

生活習慣を改善して血圧をコントロールしよう。(写真はイメージ=PIXTA)
生活習慣を改善して血圧をコントロールしよう。(写真はイメージ=PIXTA)

 企業の特定健診などで、初めて「血圧が高め」「高血圧が疑われるので一度受診を」などと指摘されたとき、「高血圧の薬は飲み始めると一生飲まなければいけないと聞いた」「しばらく酒を控えて様子見かな」などと考え、受診を躊躇する人は少なくない。しかし、国立循環器病研究センター副院長で脳血管部門長の豊田一則氏は、「高血圧治療のベースは生活習慣の改善。循環器専門医は、初めて高血圧と診断された患者さんの場合、いきなり降圧薬を処方するというよりは、まず生活指導を行い、1~3カ月ほど様子を見るのが一般的です。生活習慣の改善がきちんとできた人では、降圧薬が不要になることも少なくありません」と指摘する。

 実際、生活習慣の改善の効果は一般に思われているより高い。日本高血圧学会が公開している「高血圧治療ガイドライン2019」では、血圧改善を目的とした生活習慣の改善策として「減塩」「食事改善」「適正体重の維持」「運動習慣」「節酒」「禁煙」の6項目を挙げているが、いずれも多くの臨床試験でその効果が認められている。

 以下のグラフは、世界各国で行われた臨床研究をまとめた結果(メタ解析)や、科学的な方法で行われた比較試験(ランダム化比較試験)の結果を示したものだ。1日当たりの食塩摂取量を平均4.6g減らすと収縮期血圧(上の血圧)を約5mmHg下げることができる。標準的なラーメンに含まれる食塩は8.7gでスープを残せば3.7gなので5g減だ。また、食事改善では米国で高血圧予防・改善のために開発されたDASH食(この記事中のワンポイント解説を参照)を心がけると約6mmHg下げることができる。そのほか「減量」「運動」「節酒」でも同様に改善効果が明らかになっている。禁煙の血圧改善に関するデータは少ないが、喫煙者では高血圧の発症率が高まることが知られている。

生活習慣の改善がもたらす降圧効果
生活習慣の改善がもたらす降圧効果
出所:「高血圧治療ガイドライン2019」
ワンポイント解説【DASH食】

1990年代に米国で高血圧予防・改善を目的に提唱された。
主な内容は以下の2点。

  • 食事でとるコレステロールや飽和脂肪酸の量を減らす
  • 血圧を高くするナトリウムを排泄するカリウムのほか、カルシウム、マグネシウムを増やす。食物繊維やたんぱく質も増やす