どんな食事が病気の予防になるの? また、どんな習慣がアンチエイジングにつながるの? 世界中で進む、“健康”にまつわる研究について、注目の最新結果をご紹介します。
今回紹介するのは、睡眠に関する2つの研究です。1つは「睡眠不足は人を助けたい気持ちを低下させる」、もう1つは「寝る前のほどよい接触が睡眠の質を良くする」です。
睡眠不足は人を助けたい気持ちを低下させる
人は互いに助け合う気持ちを持っているが、睡眠不足になると、助けたいという気持ちが減ってしまうようだ。2つの実験と全国規模の寄付行動を調査した米国の研究でわかった。
研究ではまず、18~26歳の健康な男女24人を対象に、十分な睡眠と睡眠不足の2つの条件のどちらかで1晩過ごし、7日間あけて、もう一方の条件で一晩過ごした。
睡眠不足の条件では、参加者は午後9時半に実験室に来て、勉強やオンライン視聴、読書、映画鑑賞などで、翌朝まで起きていた。十分な睡眠の条件では、参加者は午後7時に実験室に来て、睡眠ポリグラフ検査の装置をつけ、自宅に戻り、翌朝、実験室に来てもらった。この条件下での睡眠時間は約7時間だった。
参加者は午前中に40項目からなる支援行動に関するアンケートに記入した。例えば、仕事に行こうと急いでいるタイミングで道を尋ねられたときや、見知らぬ人が買い物袋を運ぶのに苦労しているときに、「必ず助ける」から「助けない・無視する」までの5つの回答から選んでもらった。
その結果、睡眠不足の条件では、知らない人の場合も、親しい人の場合も、助けたいという欲求が有意に減少した。また睡眠不足の翌朝にfMRI(機能的磁気共鳴画像法)装置で、脳の神経活動を調べたところ、前頭葉や側頭葉の一部など、社会的認知行動に関連する脳領域の活動が低下していた。
次に、136人(平均38歳)の男女に対して、普段通り過ごし、4日間連続してアンケート調査と睡眠日記を書いてもらった。睡眠日記をもとに睡眠の質の指標として、就寝時間から寝付くまでの時間や入眠後に起きていた時間を引いて睡眠効率を算出した。すると、睡眠効率が悪いときの翌日は、人を助けたい気持ちが減少していることが示された。
また上記の結果を確認するため、夏時間への移行に伴って睡眠時間が短縮するという仮定のもと、米国で2001年から2016年に実施された300万件以上の寄付(1日の平均寄付額は82ドル)をオンラインデータベースで分析した。その結果、夏時間に移行すると、それ以前よりも寄付は有意に減少した。一方、夏時間を採用していないアリゾナ州とハワイ州では夏時間に移行した週の寄付額に差がなかった。また夏時間から標準時間に戻る秋に行った分析では寄付額に大きな変化はなかった。
これらのことから、睡眠の量と質は人間が互いに助け合うかどうかを決める重要な要素であるとしている。