正解がない時代の「大人のメイク学び直し本」
メイク本というと、モデルを立てて、メイクのステップを写真で説明するのが王道。 「でも、私たちの本で伝えたいと思ったのは、なんのためにこのアイテムやツールを使ってこうするといいのか、というメイクのロジック。パンダさんはロジックがしっかりしていて、教えてもらいながらすごく納得したんです」(吉川さん)。その様子を漫画で再現して伝えたほうが、読む人も、実際に指導してもらっているような実感を得られるだろうと考えたのだとか。
例えば、下地やファンデーションの塗り方。 「肌が健康的できれいな状態に見えるようにするためなので、毛穴を隠すために分厚く塗ったり、色白に見せるために白塗りにすればといいわけではありません」(パンダさん)
17万いいね! がついた眉毛の描き方、まつ毛の見せ方はどうだろう。 「眉を描くのは、自然に毛が生えてるように見せるのが目的で、そのために眉頭は薄めにして、眉尻にかけて濃くするのが基本。そうしたロジックを知らずに、メイク本やメイク動画を見ながら、寸分たがわず同じ形に描けても、自然に生えてるように見えなかったら、それはもう、単なる塗り絵です。眉が硬いプラスチックでできているならそれでもいいんですが、柔らかくて細い毛でできていますよね」(パンダさん)
確かに、その通り!(苦笑)「デカ目」が流行ったころは、まつ毛をひじきのようにマスカラを塗ったものだが、「まつ毛も、やはり毛でできています。だから、マスカラをひじきのように塗って、極太にするのはおかしいわけです」(パンダさん)。メイクのロジックを知らないと真似ることが目的になるという、典型的な悪例だったのだろう。
「とはいえ、当時は、まつ毛をひじきにするのが“正解”でしたからね……。そうするのが流行っていたはずなんですが、よくよく考えてみると、きれいな女優さんでまつ毛がひじきみたいな人はいませんでしたね。流行っていたはずなのに、おかしい(笑)」(吉川さん)
「メイクに限らず、流行って、振り返ってみると謎なものが多いですよね。その昔、細眉が流行った時代は細眉にするのが“正解”でしたし。ただ、今は、こうするのが主流というメイクの正解がないんです」(パンダさん)
明らかな正解も失敗もない時代のメイク、何を基準にすればいい?
SNSでは日本のタレントのメイク動画だけでなく、韓流アイドルやハリウッド女優のメイク動画もたくさん上がっていて、みんな自分の好きなメイクを真似している。アイテムも、安価なプチプラのものからセレブアイテムまで本当に多種多様。
「その分、いろんなメイクを楽しめる時代だといえますが、多くの人は、そんなに楽しむつもりはなくて、習慣としてしているだけだと思います。だから、一つの正解があったほうがぶっちゃけ楽。でも、それがない時代だから“メイクの迷子”になる人が多いのではないでしょうか。これという明らかな正解がないということは、こうしないほうがいい、という明らかな失敗もないということですから」(パンダさん)
では、どうすれば?
「体調によって肌の調子は変わりますし、気分もその日によって変わりますよね。服を変えれば印象も変わります。それなのに、メイクはこのやり方だけ、という考え方が、おそらく時代遅れなんだと思うんです。
なので、忙しいときは手抜きメイクでOKですが、時間があるときやお出かけするときのために、自分に合ったメイクの仕方を2、3種類マスターしておくのがオススメです。少なくとも、カジュアルとフォーマルのやり方ができると、その日の服や髪型の印象に合わなくて“なんとなく変”ということはなくなります」(パンダさん)
パンダさんからこの話を聞いたとき、吉川さんは、メイクって本来自由なものだったんだと思ったのだそう。
「一つの正解を求めるのをやめたら、眉の描き方をはじめアイシャドーの色やアイライナーの入れ方も気分で変えるのが楽しみになりました。加齢によって目がくぼんだり、まぶたが下がったりして、形が変わりますから、メイクのやり方も変えるのが自然、とも思います」(吉川さん)
ちなみに、まぶたが下がってきたと感じるようになったら、メイクはどうしたらいいのかもパンダさんに聞いてみた。
「アイラインは"引く”というよりまつ毛の間を"埋める"ようにします。視線を極力下に向けてペン先を差し込むようにすると、うまくいきます。目尻は視線を上げて、皮膚を引き上げながらだと、描く場所がフラットになるのでやりやすいです。目を開けて描くことで、イメージ通りに仕上がりますよ」(パンダさん)
取材・文/茅島奈緒深 漫画/吉川景都(ダイヤモンド社提供) 写真/スタジオキャスパー(人物)、PIXTA
現役美容部員

漫画家
