神奈川県葉山町の古民家で、料理教室「白崎茶会」を主宰する料理研究家、白崎裕子さん。小麦粉や卵、乳製品を使わなくてもパンやお菓子がサクサク、ふわふわに仕上がるレシピの秘密を探ってみました。白崎流お菓子作りの原点は、「家にあった外国の絵本や小説に出てくる、見たこともないスイーツの再現」という、小学校時代の遊びにあるようです。

体にやさしく、美味しさもあきらめない唯一無二のレシピ

 "オーガニック素材"による料理教室「白崎茶会」主宰の料理研究家、白崎裕子さん。卵や乳製品の代わりに豆乳や豆腐、甘みは白砂糖の代わりにてんさい糖や甘酒、薄力粉の代わりに米粉や、日本で昔から作られてきた地粉を用いる。

白崎裕子さん 白崎茶会主宰・料理研究家 
白崎裕子さん 白崎茶会主宰・料理研究家 
神奈川・逗子の自然食品店「陰陽洞」主宰のパン&お菓子教室の講師を経て、2008年、オーガニック料理教室「白崎茶会」を始める。

 ヴィーガン(菜食主義)や食物アレルギーを持つ人も楽しめるこうしたお菓子には、ガリガリに硬いものや、ふわふわの食感とは程遠いものが少なくない中、白崎さんのレシピはふわふわで軽やか、そして美味しさもしっかり追求されている。「本当に卵を使っていないんですか?」と驚かれることも多いとか。

材料に制約がある中で、どうやったらあのお菓子の味や形、食感になるかな?と想像しながら作ります。例えば卵を使わないスポンジケーキ。重曹を使えば膨らみますが苦みが残ってしまいます。でも、レモン汁と一緒に加えると、レモンの酸と重曹のアルカリが反応してぷくぷくと発泡し、ふわふわの食感になって苦みも酸味も消えるんです。生地のとろみや温度でも膨らみ方は大きく変わります。化学反応やさまざまな材料を総動員させて、それらがバシッとハマったときに科学の実験のようにレシピが完成します」。

 頭にひらめいたレシピを、初心者でも失敗なく作れる工程ときりのいい分量に落とし込んでいく作業が苦しくも楽しい作業だとか。そのために気が遠くなるほどの数の試作を繰り返すという。世の中に存在しないレシピを生み出す姿は、まるで料理発明家だ。

小学生の頃の遊びは、身近な材料を駆使したお菓子作り

 そんな白崎さんの原点は幼少期にある。野山に囲まれた埼玉県の奥地で育ち、両親が共に高校教師で不在がちだったため、小学生の頃から2歳年下の妹のおやつを作るのは白崎さんの役目だった。手に入る材料は、近くの直売所で売られていた地粉や近所の桑畑でとれる実、庭で採れる栗や、隣の農家でもらった卵、森に自生するグミの実やアケビなど。粘土遊びをするような感覚で、身近な食材を組み合わせてお菓子作りを始めたという。

 家には「図書室を開けるほど」たくさんの本があったため、外国の物語に登場するスイーツの味を想像しながら再現した。

「"シェリー酒を効かせた木イチゴのトライフル"なんていう、見たこともないお菓子が登場するんです。近所の桑畑に1本だけピンク色の実がなる木があって、"これを木イチゴの代わりにしよう!"なんてワクワクしながら毎日お菓子を作っていました。料理研究家になった今も、あの頃と同じことをやっているのかもしれませんね(笑)」。