雇用の流動性の低さが女性のキャリアを阻む
―― 「男女平等」と頭では理解していても、現実的には難しいと考えている人は多いかもしれません。特に日本では、男女の違いを教育現場で植え付けられている部分もあると思います。
中林 日本語は男女で言葉遣いも違いますし、男女差を浮き彫りにする要素は確かにあります。でも女子学生にアンケートを取ると「自分たちは男性と平等だと思う」と答える人は意外と多い。男女差別という壁に気づくのは、社会に出て就職や昇進で理不尽な目にあったときからなのです。
―― 中林さんは2002年まで米政府機関に約10年間勤務していました。ご自身の職場や周囲で男女差別を感じたことはありましたか?
中林 私の職場は男女比がちょうど半分でしたが、特に男女差別は感じませんでした。女性でも能力があれば、たとえ官僚的な職場であっても多様な働き方が認められていました。米国議会の予算委員会は日本でいうところの財務省主計局のような職場ですが、女性で優秀な私の元同僚は、育児の事情で週3日勤務でしたから。
女性はライフスタイルの変化で長時間働くことが難しい時期もあります。時短勤務も難しく、退職せざるを得ないこともあるかもしれません。でも米国では一度キャリアが途切れても、実力さえあれば次の会社に入れます。だから最終的に優秀な人材が育つのです。
―― 日本では新卒一括採用がまだ根強く、キャリアが途切れると再就職も簡単ではありません。
中林 日本は“入り口”ですべてが決まってしまう傾向がありますよね。最初に正規雇用されなければ、その後に逆転するのは難しい。こうした日本の働き方は世界から見てもとてもユニークで、正規雇用の流動性が極めて低いと言えます。新卒で入社したら定年までいるのが当たり前で、社員は会社に忠誠を尽くす。「うちの会社」なんて言ったりして、まるで会社が自分の家族のようです。これには良い部分もありますが、「同じ会社に長くいればいるほど良い」という文化になる。もっと雇用の流動性を高め、いつでも「横入り」できる状態にしておかないと、今後企業は大きく育ちません。
日本企業、クオータ制導入しなければ手遅れに
―― 男女共にライフスタイルに合わせてキャリアを構築できるよう、企業が考え方を変えないといけませんね。そのためには上に立つ女性の数を増やす必要もあると思いますが、日本の企業にクオータ制は必要でしょうか。
中林 先ほど、選挙がある政治においては「女性のお面をつけているだけでよいのか」という観点も含めてクオータ制を検討すべきだと話しましたが、企業においては、一刻も早くクオータ制を導入しないと手遅れになるという考え方もあります。じわじわと平等な世界が広がっていくのを待っている暇はありません。今後、日本は人口が縮小し、それに伴って経済も縮小していくことは明らかです。人的資源の有効活用で企業価値を高めるため、無理やりにでもクオータ制を取り入れて女性のリーダー職を増やすのは理にかなっています。
―― 今後、日本のジェンダーギャップ指数はどう変化していくと思いますか。
中林 しっかりランキングが上がるようにしたいですね。そのためには、私たちの世代がどんどん若い人材を育てていかないといけません。時間はかかっても、「急がば回れの精神」。これは男女が力を合わせて根本から取り組んでいきたい課題です。

取材/岩井愛佳(日経WOMAN編集) 文/樋口可奈子 写真/山口直也(スタジオ☆ディーバ)