三浦 「#MeToo運動」の影響はかなり大きかったと言えるでしょう。民主党やハリウッドなどリベラルとされている場において女性蔑視が根深いことが明らかにされたから。「リベラル派は口ではきれいごとを言っていても、全然リベラルではないじゃないか」という批判が集まりました。そうした経緯もあり、2020年の選挙では大統領、副大統領のどちらかに女性を立てることが重要視されたのだと思います。

 しかし、単に実力派の女性を選ぶということなら、最後まで民主党候補者指名を争った白人女性のエリザベス・ウォーレン氏(20年の米国大統領選に立候補した民主党の上院議員。20年3月に撤退を表明)が副大統領候補に指名されてもおかしくはなかった。ハリス氏が選ばれた理由としては、女性であるのに加えて、インド系の母とジャマイカ系の父を持つ人種的マイノリティーであるということも大きいでしょう。これには黒人の有権者に訴えたいという狙いもありました。

カマラ・ハリス氏が女性初の副大統領に就く背景について解説する三浦瑠麗さん(オンラインで取材)
カマラ・ハリス氏が女性初の副大統領に就く背景について解説する三浦瑠麗さん(オンラインで取材)

 そして、ハリス氏は保守にも革新にも偏らない民主党の穏健中道派で、バイデン氏と近い政治思想を持っています。副大統領はあくまで大統領の「サブ」。大統領に忠実でなければなりません。自分と同じように穏健中道派のハリス氏なら安心できると、バイデン氏は考えたのかもしれません。

 女性であること、人種的マイノリティーであること、さらに政治思想が近いこと。この3つが、ハリス氏が副大統領に指名された大きな理由だと考えています。

人種的にはマイノリティーでもエスタブリッシュメント

―― クリントン氏はファーストレディーから上院議員、さらに国務長官にまでなったエリートというイメージがあります。それに比べるとハリス氏のほうが米国民にとって身近な存在なのでしょうか。

三浦 ファーストレディー経験者という点だけ見てしまうと、クリントン氏に対して雲の上の人というイメージを持つ人はいるかもしれません。でも苦労人という度合いで見ると、そうとも言えないのです。

 ハリス氏は人種的にはマイノリティーを代表していますが、恵まれた教養家庭で育ってきた人。両親は離婚しましたが、母はインドの裕福な家庭で育った著名な乳がん研究者であり、父はジャマイカ出身の経済学者というエスタブリッシュメント(エリート階層)です。ハリス氏自身は検事出身。その後、カリフォルニア州の司法長官、そして上院議員になりました。

 一方、クリントン氏は衣料関係の会社を営む白人家庭の出身ですが、彼女の母親は学歴がなく、少女のときに親に捨てられて住み込みの家政婦をするなど大変な苦労をした人です。クリントン氏はロースクールに進学して弁護士になり、女性や子どものために働いてきました。人権派弁護士として雑誌の表紙を飾ったこともあります。人種の違いこそあれ、ハリス氏とクリントン氏を隔てる要素は特になく、むしろクリントン氏は弱者のために働いてきたリベラルの先駆者であると言えるでしょう。