この人には、なぜ自分の言葉が通じないんだろう――。そう思ったことはありませんか? 部下が指示通りに動いてくれない、上司を説得できない、お客さんが乗り気になってくれないなど、「自分の言葉で相手を思うように動かせない」という悩みは多くの人が持っていると思います。
その悩み、「言葉の選び方を変える」ことで、解決するかもしれません。実は、Aさんに響きやすい言葉と、Bさんに響きやすい言葉はそれぞれ異なります。人によって、かける言葉を適切に選ぶことで心を動かしたり、行動を促したりしやすくなるのです。
この連載では、「LABプロファイル」というメソッドに基づき、相手に響きやすい言葉を選ぶ方法について紹介します。
こんにちは、フリーアナウンサーの牛窪万里子です。食品メーカーのサントリーホールディングス勤務からNHKキャスターに転身し、その後独立。今はキャスターやリポーターが多数所属するプロダクションを経営しつつ、話す仕事を続けています。
私は食品メーカー勤務時代から一貫して、自分の言葉が響く人と響かない人がいる、ということに課題意識を持っていました。アナウンサーという仕事を選んでからは、言葉というものへの関心が高まり、さまざまな理論やメソッドを学んできました。
やがてたどり着いたのが「LABプロファイル」というメソッド。これに出合ったことで、「言葉で相手を動かせない」悩みがウソのように改善しました。
LABプロファイルは、言語研究における世界的権威者であるカナダのシェリー・ローズ・シャーベイ氏が開発したメソッドです。「LA」はランゲージ(言葉)、「B」はビヘイビアー(行動)で、「影響言語」と訳されることが多い。相手が使う言葉から、その人の思考や行動のパターンを分析。その人に合った言葉遣いで語りかければ、心を動かしたり、行動を促したりと、その人に影響を与えやすくなるというノウハウです。
なぜ、人によって響く言葉が違うのか?
人は一人ひとり、生まれ育った環境や経験してきたことが異なるため、異なった価値観を形成しています。価値観が違うことで、同じ言葉であっても、人によって受け取り方が変わるのです。例えば「人生」という言葉であっても、それまで幸せに暮らしてきた人にはポジティブなイメージ、苦しんできた人にとってはネガティブなイメージの言葉として感じられます。
言葉への反応、言葉から感じるイメージは人それぞれなので、言葉遣いも自然に、一人ひとり異なってきます。親の言葉遣いに似る場合もありますが、それ以外の経験や友人からも影響を受けます。ただ、大人になって一度固まった後は、容易に変わることはないとされています。
例えば会議で、あるプロジェクトについて提案するとき。「このプロジェクトによって、多くの利益を獲得することができます」という言葉が響く人と、響かない人がいます。皆さんはどうでしょうか? 響かない人に対しては、もしかすると「このプロジェクトによって、これまでの問題を回避することができます」という言葉のほうが響くかもしれません。
例えば、アパレルショップで接客を受けたとき。「このワンピースお似合いですよ!」という言葉が響く人と、響かない人がいます。響かないお客さんに対しては、別の言葉がけが必要かもしれません。
今挙げた例の詳細については、本連載で順次、解説していきます。LABプロファイルは、このようなさまざまなシチュエーションで役立つメソッドです。相手の言葉遣いを分析することで、目の前の部下を動かしたり、お客さんの購買意欲を高めたりするのに効果的な言葉を選ぶことができるのです。プレゼンや講演など、多数の人に向けて語る場面では、複数のパターンの言葉を織り交ぜて話すことで、多くの人に同時に響かせるテクニックもあります。
では早速、一つ目の具体的なテクニックについて学んでいきましょう。
突然ですが、あなたには「今回はいい仕事ができた!」と実感した経験はありますか? もし、具体的な体験が思い浮かばないなら、イメージでもいいので、自分が「いい仕事ができた!」と実感しているシーンを思い浮かべてみてください。
それでは次の質問です。
実はこの質問への答えによって、あなたの言葉遣いのパターンの一端が分かります。そして、この質問を他人に――例えば部下に――してみることで、その回答内容から、その人の言葉遣いを見極め、その人に響きやすい適切な言葉を選ぶことができるのです。
LABプロファイルには14のカテゴリー、12個の「質問」があり、それへの回答でどんな言葉が使われるかによって、その人の言葉遣いのパターンを判断します。14カテゴリーについて、それぞれ2~4パターンに、人の言葉遣いを分類することができます。正式には、12個すべての質問への回答から総合的な判断を行いますが、一つひとつの質問(カテゴリー)だけでもその人の一部を理解する参考にはなります。