内部で十分に豊富な人材を抱えているはずの大企業の間でも、副業人材受け入れの動きが広がりつつあります。その主目的は「外部の知見を取り入れる」こと。2020年に大々的に副業人材を募集して話題になったヤフーと、副業マッチングサービスを通じて積極的に人材を採用している、流通サービス業のドウシシャに、副業人材を受け入れた経緯や狙い、活用のコツについて聞きました。

「ギグパートナー」募集に4500人が殺到した理由(ヤフーの場合)

 ヤフーは1996年の創業以来、社員の副業を可能としており、経営体制を刷新した2012年にはそれを明文化。コロナ禍の20年以降は、時間と場所から解放する働き方をさらに推し進めた。これによって、社員が副業をするだけでなく、外からの人材が副業でヤフーに参画する自由度も高まることになった。「自分たちが副業をしやすくなった、というところから思考がぐるっと一周して、『待てよ、そういうふうに副業がしやすくなるのは僕たちだけじゃないね』となったんです」と、ヤフーのコーポレートグループ PD統括本部 コーポレートPD本部 採用部部長(肩書は取材を行った22年2月時点)の大森靖司さんは話す。

 「そこで『ギグパートナー』と呼ぶ、ヤフーを副業先とする人材の副業・兼業の受け入れを行うことを決めました。その目的は、一緒にオープンイノベーションを起こしていこう、ということです。『ギグ』という言葉には、音楽セッションで『この時だけは一緒にやろう』という意味合いがあります。一緒に働くパートナーとして受け入れたいという思いから、ギグワーカーでなく『パートナー』の名称を付けました。

 副業人材受け入れについて、社内で議論を重ねてきました。通常、副業人材というと、反復・継続した業務を任せるイメージがあるかもしれませんが、経営陣と話す中で見えてきたのは、ぼくらが想像する副業パートナーの役割は『壁打ち相手』だったんです。インターネットビジネスでは『やったことがない。だけどやりたいことはたくさんある。それらについてのアドバイスが欲しい』といったニーズがたくさん出てくるからです」

 20年7月15日、全国5紙の1面に「ギグパートナー募集」のプレスリリースを出した。募集した職種は主に、同社のCOO(最高執行責任者) や CSO(最高戦略責任者) などに対するアドバイザー職。業務内容は特定のテーマに関するリポート提出や、経営陣とのディスカッションへの参加といったもので、契約は2~3カ月の業務委託、原則オンライン業務だ。

 募集開始から約1カ月間で、海外在住者を含めて 4500 人を超える応募があった。告知方法は工夫したものの、ここまでの反響は想定外だったという。

ギグパートナーの募集ページ。随時募集に移行しており、22年3月時点も募集しているポジションが
ギグパートナーの募集ページ。随時募集に移行しており、22年3月時点も募集しているポジションが

 「コロナ禍を背景に、時流として副業へのニーズが高まっていたことに加え、事業会社が単独で副業を募集することが珍しかったんだと思います。また業務内容として当社の経営陣と対話やディスカッションができるといった内容が注目されたのでは。もともと他社の正社員の方からの応募は多いだろうなと思っていたのですが、経営者や役員、個人事業主の比率が、通常の採用活動では見られないほど高かった。オンラインでの業務を基本とするなど、場所と時間の制約を取り払った副業という働き方だからこそだな、と思いました。第1弾として10 歳から 80 歳までの計 104 人との業務を開始しましたが、10代や80代といった、普段接することのない方々から、彼らなりの視点でアドバイスをもらいました」

 副業人材受け入れのメリットは、外部の客観的な目線で遠慮のない意見や提案を聞ける点だ。社内からは組織の利害関係ゆえか、遠慮があって出てこないような、「このサービスは使いづらい」といった率直な意見や別の視点からの知見が得られるという。

 「10のアイデアが出れば、そのうち2~3つは『なるほど』と思えるものがあり、多様な意見の価値というものを実感しています。例えば、Yahoo!きっずという、主に小学生と、一部未就学児も使っているサービスでは、学校の先生などのリアルな声をなかなか集めにくい課題がありました。ギグパートナーという形であれば、教育現場に明るい方に意見を聞いて、新サービスについての課題を洗い出すことができます」